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キスする前に出来ること【真相編】8
「なっ、なんで暁人が恭介を殴るんだよ……!?理由は!!?っていうか…、キャラじゃなさすぎるだろ!!!お前、暁人に何したんだよ!!?ケツでも触ったのか!!!?」
「触るかぁっ!!!!!」
「じゃあなんだよ!!!?一体何したらあの暁人がお前のこと…」
「……かなの……ためだよ」
「……え?」
「かなが…日に日に弱っていってるのに本当に気付かないのかって…怒られて……」
「……」
「で、気付いてなかったって正直に言ったら……ぶん殴られた………」
「……う、そ……」
「暁人……めちゃくちゃ泣いててさ……、爽が宥め役に回る位…ほんとに、かなのこと心配してた」
暁人が………?
嘘だろ……?
温厚で天使みたいに優しいお前が…俺の為に人を殴ったのか……?
信じられない……
「……俺、かなのことも…かなを大切にしてる暁人のことも、すっげぇ追い詰めてたって今更気付いて……だから、俺の行動の理由を…ちゃんと話したくてっ…」
「行動の…理由…?」
「うんっ…」
「……お前……様子がおかしかった自覚は……あんのか?」
「えっと…正直…隠し通せてると思ってて……でも……こんなことになるなら…最初から隠すべきじゃなかったよね……」
本来勘の良いはずの恭介がこんなに何も見えなくなるほど悩んでいたってことは……
やっぱり、
俺のせいだよな……?
「実は……、俺ね…」
「………いいよ、恭介」
「…え?」
「いい……許すよ………、悪いの俺だし……」
「……はい……?なにが…?え…なんでかなが…」
「もういいから……だから………、」
十分だ。
恭介が、俺との関係を修復しようという意思があるだけで……もう大丈夫。
浮気したことなんて、どうでもいい。
恭介の目を真っ直ぐ見つめて、それからゆっくり口を開く。
人生で、初めての台詞だ。
「キス……して?」
「………………………エッ!!!?」
たっぷり間を開けて返ってきた恭介の声は、少々裏返っていた。動揺するのもわかる。俺だってしてるから。
「頼むよ恭介……キス、してくれ……」
「ちょ、ちょちょちょちょっと待って…!!?エッ!!?なんでそうなった!!!?」
「………嫌か?」
「嫌な訳ないじゃん!!!!めちゃくちゃしたいに決まってんじゃん!!!!そんなの、出会った日からずっとしたいよ!!!…だけど、かなはっ…!」
「うん……、わかってる……でも、チャレンジしてみたいんだお前のために」
「………か、な…」
俺がキス出来るようになれば……、
セックスできるようになれば……、
お前はもう、我慢しなくて良いだろ?
浮気………しなくていいだろ?
動揺しまくっている恭介の頬を両手で包み込み、グッと自分の顔に引き寄せる。
もし、キス出来れば………正真正銘のファーストキスだ。
俺はレイプされた日、唇だけは奪わせなかった。…というか、あの時はずっと吐いてたから…あの女もキス出来なかっただけなのかもしれないけど。
恭介……、
初めてのキスがお前なら、もう言うことないよ……俺。
「……して、」
「でもっ…!」
「して…恭介っ…、俺…お前がいいっ」
「…っ、かなっ……」
「もう、お前以外誰にも……なにも、奪われたくないっ……」
唇同士の距離は1cmも無い。
身長差で少々前屈みになった恭介は、切なげに俺の目をジッと見た。ここまで近距離で会話するなんて、初めてだ。吐息が熱い。
グッと堪えた表情だった恭介は俺の腰に腕を回すと、顔を傾けていよいよキスの体勢に入った。
俺、もしかしたらお前なら受け入れられるんじゃないかって……心のどこかで思ってたんだ。
良かった。
これでもう、トラウマと…さよならできる。
唇と唇が触れ合う直前、身体がガタガタと震え始める。
恭介の顔に添えていた両手も馬鹿みたいに震えて、吐き気が込み上げた。
なんだよ、
やっぱり……
ダメなのか……
「……かな、」
「……っ、ごめんっ……、ごめん恭介っ…、俺っ……」
「……大丈夫……、しないから……怖がらないで」
「……っ」
「かな……、大丈夫だよ……」
恭介は自分の顔から俺の手を外させると、もう一度ギュッと抱きしめてくれた。慰めるように俺の背中を撫で、"落ち着いて"と何度も呟く。荒くなった呼吸がゆっくりゆっくり落ち着いていくのを感じた。
お前を受け入れられないなら、
俺……なんのために、
生きてるの……?
「きょう、すけっ…」
「大丈夫……ヨシヨシ…」
「きょう……すけっ……っ、」
「うん、平気だよ………かな……大丈夫」
「……大丈夫じゃ、ないっ…………恭介っ……、俺っ…ほんとにお前のこと…」
「うん……、わかってるよ…?」
「わかって…ないっ!俺はほんとにっ……!!」
優しい声でひたすら俺を慰める恭介に、罪悪感が溢れ出す。こんなこと、お前に言ってもらう資格なんて……俺にはない。
俺、お前のこと……幸せにしたいだけなのに……身体ごと愛されたいだけなのに……
なんで、
どうして……
改めて自分の人生を呪い、そして
決意を固める。
「かな…?ねぇ、どうしたの…?なんでそんなに…」
「恭介……」
「ん…?」
「こ………、これ……」
抱き締められながら右手をポケットに突っ込み、中から小瓶を取り出す。
身体が、指が、震える。
本当は……こんな禁じ手、使いたくない。
だけど、仕方ないじゃないか。きっと、今の俺の状態なら……うまくいく。
いきなり目の前に謎の瓶を出されて、恭介はキョトンと俺の顔を見る。
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