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キスする前に出来ること【真相編】12
「…………よし…わかった……」
「…ん?」
「………それなら……明日、お前の妹に会いたい」
「……え」
「家行っていいか?休みだろ?」
「……いい、けど……え、なんで…?」
「なんでも」
「……えっと、……かな?なんか……目が据わってるよ…?怒ってる?」
「いや………まぁ、あえて言うなら…自分にキレてる」
「………超怖いんですけど」
「いつものことだろ?」
ニヤッと笑う俺に、恭介は困った顔をした。
さて、どうしたものかな。
いくつかこの現状を打破する名案が浮かんではいるけれど……それは、妹さんと話してからでも遅くはない。
大丈夫だよ恭介。
俺も、お前より大切なものなんてないから。
お前のためならなんだってやってやる。
安心しろ。お前の苦しみなんて、俺が全部この手で握りつぶしてやるから。
恭介の顔を見つめて、頬を撫でる。俺に撫でられながらしばらく不思議そうな顔をしていた恭介は、キョロキョロと目を泳がせた後…口を開いた。
「あのさぁ……かな…?」
「ん?」
「俺、今日は泊まっていい……?」
「……え…」
「ずっと会えてなかったから一緒にいたくて……」
「でも…妹さんは…?」
「伊吹には恋人の家に泊まるかもってちゃんと言ってきた……というか、アイツは元々俺が家にいない方がのびのびしてるしね?だから……大丈夫……」
…今日は、思ってもいなかった事ばかり起こる。
「かな……添い寝…させてくれない?」
「……」
「……だめ?」
「…いい…よ、………でもそれ、フル勃起しながら言うか普通…?」
「あははっ!!!ごめん正直で!ぜんっぜん治んねぇーーー!!!」
俺は恭介の胸からゆっくり上に這い上がって、耳元に顔を埋めた。驚く恭介を尻目に小さく呟く。
「…………お前には、拷問じゃねーの?」
「……え」
「俺の隣で寝れんの…?触れないのに…?」
「それ、は…」
「我慢できんのか……?」
「……も、もちろん!!!!」
「へぇ……」
「………?かな…?どうし…」
「………えっちなことしないでね…?きょーすけ……くん?」
散々振り回された分、仕返ししてやろうと口元に手を当ててニヤッと笑いながら恭介を見る。
「………っ、ねぇもうやだこの小悪魔ーー!!!!!マジで色っぽい!!!!鼻血出そうっ!!!!」
「あははっ!!!!この正直者~っ」
あまりにも正直すぎる恭介の反応に、ここ数日で一番穏やかな笑いが込み上げた。
……ほんとによかった、全部勘違いで。
でもな、俺………
例え本当にお前に裏切られてたって、きっとお前から離れられなかった。お前のためなら、どれだけ傷ついてもよかったんだ。
盲目的で笑えるだろ?
なぁ、恭介……気付いてる?
俺、本当に………
お前のこと………
「あ、そういえば」
「…ん?」
「お前が胸ぐら掴んだ高校生だけどさ…」
「あ…!あの子結局何だったの…!?助けてくれたって言ってたけど…ほんと?」
「うん…俺が、えーっと…ちょっとだけ絡まれてるとこにたまたまアイツが通りかかって…で、助けてくれただけ」
本当は車に押し込まれそうになったけど…まぁ、それは言わなくていいか。心配させるだけだしな。
「なんだぁ…!俺勘違いして悪いことしたなぁ……あの子知り合いなんでしょ?名前は?俺謝りに…」
「……日下部 旭」
「……………………え」
「アイツ暁人の弟だよ」
「……………ハ!!!!?」
「お前……また暁人に殴られんじゃねーの?」
みるみるうちに顔面蒼白になる恋人に、俺は堪えきれず床をバンバン叩きながら爆笑する。
そりゃそうだ…暁人は弟が大好きだと常々公言していたから。
それに…
…場合によっちゃ、もっと怖いモンスターたちが召喚されそうだ。
「お前が旭を殴ろうとしたって知ったら…暁人だけじゃなく……爽も楓さんも般若と化すな…たぶん」
「ええええええっ!!!?ちょっと待って俺やばいじゃん!!!!どうしよう!!!?今すぐ謝ったほうがよくない!!!?むしろ…国外に亡命すべきじゃない!!!?」
「あ!ついでに俺も参戦してお前を完全な四面楚歌にしてやろう」
「なんでーーーー!?なんで敵側につくの!!?おかしくない!!!?おかしいよね!!!?なにそのアベンジャーズ!!!?俺死ぬじゃん!!!!!」
「ブハッ!!!!!!あははははははっ!!!!!お前マジウケる!!!」
「笑い事じゃ無ーーーいっ!!!!!」
慌てふためく恭介を見て、俺は半分涙を流しながら爆笑した。こんなに俺を笑わせてくれる男、お前以外いねーよ。ほんと、最高。
「ふふっ…!そろそろ落ち着けって」
「落ち着けるかぁ!!!!」
「あー…じゃあ……」
「…?」
「メリークリスマス、恭介」
「………なっ、なんで今言うのぉ…かなっ…!タイミング考えてよぉーーー!!!!」
「だって、イブじゃん今日」
「そうだけどっ…!!!グッ……!もしかして……そのかわいい笑顔見せればいつでも俺の機嫌取れると思ってる!!?」
「は?思ってるけど…違うのか?」
「ウッ……!!!違わないっ!!!!メリークリスマスっ!!!!!かな愛してる!!!!結婚しよ!!!!!」
「あははっ…!ヤケクソじゃんっ!」
完全敗北って顔で床に転がる恋人を尻目に、俺はゆっくり立ち上がり…
寝室のドアを開けた。
「………来る?」
「もぉ……なにその誘い文句っ……!!かなってなんでいちいちセクシーなの…?もうちんちんが元気いっぱい過ぎてしんどいってぇっ…!!」
「…返事が聞こえなーい」
「……行く!!!」
「ぶはっ…!やっぱ……素直なお前が一番かわいいよ」
「ウーッ!!!もうなんでもいいーっ!!!かなだいすきーっ!!!!」
パッと立ち上がり、俺の肩に顔を埋めて擦り寄ってきた大型犬を優しく撫でる。やば、マジですっげぇかわいいじゃん。
恋人と2人きり……ドキドキのクリスマスイブの夜は、これから始まる。
「………かな……」
「ん…?」
「プレゼント…家に置いてきちゃった……明日渡していい?」
「……用意してたのか?」
「もちろん!」
「……俺も、してるよ……」
「えっ!?ほんとに……!!?」
「うん……俺は今日あげられるけど…死ぬほど眠いし…コンディション的に明日の方がいいかな……」
「…は?……コンディション?」
「ふふっ…まぁ、お楽しみってことで」
俺のこの言葉の意味を知った時、恭介は一体どんな顔をするかな………?
今から楽しみ。
俺は恭介のネクタイにそっと指をかけて、ゆっくり緩ませる。そのまま目の前の男を見上げると、みるみるうちに真っ赤になっていって驚いた。これで照れるのは、意味不明。恭介のツボって…やっぱよくわからない。
「あのぉ…結城さん…?」
「…なに?」
「……いちいち下半身に直撃する行動すんのやめてもらっていいですか…?」
「はぁ?」
「指の動きがクソエロいんですけど…!」
「……お前は童貞かよ」
呆れる俺の顔を見て、恭介は優しく笑う。
この夜、俺は本当に久しぶりに………
たっぷり10時間安眠することに成功した。
…To be continued.
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