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バイプレイヤーズロマンス【前編】3
「その瞬間っ……俺の頭に漢字4文字がよぎったのであった…!!!」
「……楓さん……動揺しすぎて小説みたいな語り口になってるって」
旭くんから衝撃的な告白を受けた翌日、悩みに悩んだ俺は…店の常連であり友達でもある結城 要くんのおうちにお邪魔していた。
俺の突然の訪問にもかなちゃんは一切嫌な顔をせず、笑って受け入れてくれた。本当、優しい子だよね?
彼とは友達になってそんなに経つわけじゃないけど…誰かに相談したいと思った時、一番最初に浮かんだのはかなちゃんの顔だった。かなちゃんって誰に対しても忖度なくズバズバ言うタイプだから他人から誤解されがちだけど、実は尋常じゃなく器がデカいんだ。思わずついて行きたくなるボスタイプっていうのかな…?完全に社長の器だと思う。
彼は世界的に有名な一流デザイナーの御子息なんだけど、きっと近い将来お母様よりも有名になると俺は思う。もちろん、彼自身の…実力で。
「かなちゃんっ……!これ"淫行条例"にひっかかるよね!!!?」
「あー……4文字ってそれかぁ…」
「完っ全に青少年保護育成条例違反だよね!!!?っていうか大人としても経営者としてもダメだよね!!!?」
「旭って…まだ17だっけ?」
「そう!!!!旭くん3月生まれだからあと1ヶ月は17歳なの!!!!あんな聡明で綺麗な子をこんな俺みたいなおじさんがっ…!!!ヤダーーーー汚らわしいーーーーーッ!!!!!」
「…はぁ?どっからどう見ても楓さんは"お兄さん"だろ……俺よりずっと童顔なくせに……」
「かなちゃんっ!!!同情はいらないっ!!!!アラサーをからかわないでっ!!!」
「……アンタどんだけキャラ崩壊してんの……マジで落ち着けって!そもそも旭側から仕掛けてきてんだし……まだなんもしてないんだろ?」
「"まだ"ってなに!!!?なにもしないよっ!!!」
「…あー……はいはい」
かなちゃんは呆れた顔で俺の前にコーヒーを置いた。
うわ、かわいいコーヒーカップ……うちの店に欲しい。かなちゃんとは、本とか物とか全部含めて妙に趣味が合うんだよねぇ……。彼に相談したいと思った理由は、ここにもあるのかな。
「あはっ…、楓さんに家で淹れたコーヒー出すの勇気いるわぁ…」
「え…?なんで?」
「だって楓さんのコーヒー超美味いじゃん…こんな泥水飲ませて申し訳ないって気持ちになるってこと」
「ええっ!!?そんなことないよ?いい香り…!」
「…マジ?ならコーヒーメーカー様々だな」
「文明の利器ですねぇ…」
ゆっくりコーヒーを口に運ぶと、優しい味がした。酸味と苦味のバランスもちょうどいいし…これは…コロンビアかな…?ちゃんと豆から挽いてあるし、おうちで飲むなら十分だ。最近のコーヒーメーカーすごいなぁ……。
「はぁ………おいし…」
「ちょっとは落ち着いた…?」
「……うん、ごめん」
「いや、謝ることじゃねぇけど……こういう楓さん…すっごい新鮮だなぁって」
「…そう?」
「うん…少なくとも、俺が今まで見た中で一番の動揺だったから」
「えっ、そっかなぁ?」
「そうだって!楓さんいつも冷静なのに…旭のことになると取り乱すんだな?」
言われてみれば……確かにそうだ。
俺、普段からみんなに冷静でポーカーフェイスって言われてるのに……なんで今回だけこんな……
「楓さんってさ………前は爽のこと好きだったろ?」
「え、……え!!!!?」
頬杖をついたかなちゃんがニコッと笑いながら呟いた。
嘘………、バレてないと思ってたのに……
「………なんで…」
「いやぁ……俺、こういうのめちゃくちゃ鋭いんだよねぇ……」
「鋭すぎでしょ……」
「ちなみに、ゲイなのは初対面で気付いてたよ」
「え!?嘘!?俺バレバレじゃん!!!!」
「いや…俺もそうだからなんとなくな……わかんじゃん…そういうの」
「あ……そっか…、…そうだね…」
そこもバレていたか…
かなちゃんが言うように、そういうのって…当事者はなんとなくわかる。
俺たちの周りは同性で交際してる人だらけだけど、実際男しか恋愛対象にならないタイプは…たぶん俺とかなちゃんだけだ。あきちゃんも、樋口も、和倉くんも、もちろん…旭くんだって、好きになった相手が同性だっただけで元々ゲイってわけじゃないと思う。
「でもさ、爽を好きだったことは…もう過去だろ?」
「………うん……!そこまでわかるの?」
「まぁな……楓さん…今は暁人のことも同じくらい好きなんじゃねーの?」
初めて会った時から頭のキレる子だなとは思っていたけど…こっちの分野でもそうなのか。
「そうかも……だって、あきちゃんほんとに天使みたいなんだもん……あんなの、恋敵とか関係なく好きになっちゃうよ…」
「ははっ…、うん……俺もそう思う」
「あーあ……俺たちみーんなあきちゃんにメロメロだよね」
「だなぁ~……出会えて、マジで幸せ」
「うん、俺も…」
かなちゃんの優しい微笑みを見て、俺も思わずニコリと笑う。
あんな純粋で真っ白な男の子、きっとこれから先だって一生出会えない。あきちゃんに出会えただけで、樋口を好きになって良かったなって思えるんだから…すごいよ。ほんとに。
「…で、楓さんはどうしたいの?」
「え?なにが?」
「……だから……旭と、セックスする気あんの?」
「………はぁああああ!!!?」
俺の叫び声に、かなちゃんは大爆笑を始める。やばい、俺…珍しく遊ばれてない?
「ねぇかなちゃんっ!!!いじりすぎ!!」
「ブハッ…!!!ふっ…!ごめんっ、動揺する楓さんかわいくてつい意地悪な聞き方した…!」
「もーっ!!」
唇を突き出して顰めっ面を向けると、かなちゃんは両手を合わせてごめんごめんと笑う。
俺、そんなにいつもと違うのかな。
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