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バイプレイヤーズロマンス【前編】4

「言い方変えるわ…!じゃあ、楓さんは…旭の気持ちに応える気あんの?」 「そんなの……!…もちろん、ないよ?」 「即答だな…」 「だってほら…歳のこともあるし…他にも色々……」 「でも、旭に返事しなかったんだろ?」 「というか……旭くんが…『考えてみて欲しい』って言って…すぐ帰っちゃったから…」 「ああ、そっか……なるほどね…言い逃げとは上手いこと考えるなぁアイツも」 「え、これ上手いの?」 「上手いだろ……きっとその場でなら楓さんもすぐ断ってただろうけど、"考えてみて"って言い逃げしたら少なくても一定期間相手は自分のことだけ考えてくれる訳じゃん?やっぱアイツ…すっげぇ策士」 かなちゃんはうんうんと頷きながらコーヒーを飲む。 策士…なんて、そんな大袈裟な話? 「旭くん…ほんとにそこまで考えてたのかな?」 「あのなぁ……みんなアイツの頭の良さを甘く見過ぎ……うちの大学に推薦で入学する時点で学力は折り紙付きな上、17にして俺たちの中の誰よりも勘がいい」 「……かなちゃんがそこまで言うなんて…」 「人当たりの良さ、顔面偏差値、頭の良さ、どれを取っても将来有望な超絶優良物件だぞ旭は」 「………確かに……そう、なのかも…」 「まぁ旭の場合、それ全部差し引いても大前提としてめちゃくちゃ良いやつなんだけどな?」 「……だね…」 「なのに、楓さんは……ちょっとも揺れねーの?」 「え…」 ……そんなこと言われても……、旭くんとどうこうなんて…今まで一度も考えたことがなかったんだ。 だって、相手はまだ高校生で…11個下だよ…? 考える方が変態じゃん。 というか……それ以前に……、 「……じゃあ、無関係な人間から1個だけ……"余計なお世話"していい?」 「……え?」 かなちゃんはクスッと笑って、頬杖をつく。 "余計なお世話"…って、一体…なに…? 「旭ってさ…すっげぇピアノ上手いの知ってる?」 「……へ、そうなの!?」 「うん…、小中と相当真剣にピアニストの道目指してたらしくてさ…すーげぇ上手いの!俺も初めて聞いた時ビックリした!」 「……全然知らなかった」 そんなの完全に初耳だ。 やっぱり、旭くんってかなりミステリアス。あの子俺にはあんまり自分のこと話さないからなぁ。控えめで、ふわふわしてて、優しい。その雰囲気に飲まれて、俺は割となんでも話しちゃってるんだけど。 「そのまま続けてりゃ音大だってストレートで入れたろうに……アイツ、その道を迷わず捨てたんだぜ?」 「……なんで…?」 「………暁人と、同じとこに進学するため」 かなちゃんの言葉に、一瞬にしていろんな感情が頭の中を駆け巡る。 …じゃあ、旭くんは……自分の未来より…あきちゃんを選んだってこと……? それって…… 「暁人本人は相当周りの反応に疎いから、小さい頃から危ない奴に何度も目つけられてたみたいでさ…で、旭は暁人を守るために…自分の才能も、夢も捨てて…暁人の側にいることを選んだって訳」 「……そんな、」 「旭ってさ……そういう奴だよ?」 「………」 「誰かのために、黙って自分を犠牲に出来ちゃう男なんだよ」 …信じられない。 いくら大切な兄弟のためとはいえ……夢まで犠牲にできる…?もし、自分なら…? 絶対、そこまで出来ない。 そっか、旭くんは…… これまでずっと、あきちゃんのために生きてきたんだね。 樋口と……同じだ。 かなちゃんは、ふぅ…と小さくため息をついて…"やっぱ、余計なお世話だったかな…"と呟いた。それを見て、慌てて首を横に振る。 ……かなちゃんはそれ以上言及しなかったけど、これって……… 旭くんはあきちゃんのことが……、 だとしたら、なんて悲しいんだ…… 俺の樋口への想いも霞むほどの……悲恋。 「……なら、尚更……今俺なんかが好きなんて……おかしいよ」 「………なんで?」 「俺……ほんとは……旭くんが思ってるような人間じゃないもん……」 「ふぅん……俺はそんなことないと思うけど…?」 「そーなんだってば!……かなちゃんも俺のこと…買い被ってるんだって……」 「…でも、考えてやってよ……俺、旭の恋応援派」 「ええっ!?無闇に応援しないでよぉ…」 「いいじゃん」 「だめ!!!釣り合わぬは不縁の基!!俺なんか、旭くんに相応しくないよ」 普段なら決してしないめんどくさい言い回しをしたのは、もちろん相手がかなちゃんだから。彼なら絶対に理解してくれるとわかっているから。 「はぁ?自虐しすぎ……楓さん、頭いいし綺麗なのに」 「ねぇ〜ソレ普段からあきちゃんやかなちゃん見てる俺に言う?俺は超普通!!!!見た目のこと抜きにしたって……俺は…旭くんみたいな子に選ばれていいような人間じゃないの…ほんとに…」 「……それこそ、自分のこと客観視出来てねーじゃん」 嬉しいけど……かなちゃんはやっぱ俺のことめちゃくちゃ買い被ってるよ。 俺はほんとに、旭くんみたいな完璧な子の隣にいちゃいけないんだ。そのことに変わりはない。 「意外……楓さんって、こんなネガティブだったんだな……」 「……ネガティブっていうか……事実として、俺は旭くんには全然相応しくないの」 「……まぁなんにせよ……それは、旭が決めることじゃん?」 かなちゃんの言葉に、俺はとうとう机に突っ伏して大きなため息をつく。 ……わかってる。 俺が悩んでいるのも、即座に拒否できなかったのも、少なくともこの申し出を悪くないと思えてしまったからだ。だって旭くんは…恋愛感情うんぬんの前に、非の打ち所がないくらいのいい子なんだもん。 彼がうちの店で働き始めて2ヶ月ほどになるけれど、怒ったところや不機嫌な瞬間を一度だって見たことがない。常に温厚で、気が利いて、どんな相手にも笑顔を絶やさない。仕事の面でも死ぬほど有能な上、あの容姿で彼目当ての女性客は日に日に数を増している。 あんな子に好かれて、正直…… 嬉しいと思ってしまった。 だけど、俺は大人だし…未成年の告白を鵜呑みにして簡単に受け入れられるほど腐っちゃいない。そりゃ、樋口とあきちゃんみたいに親公認の許嫁同士…っていうならまた話は全然違うけど……旭くんの俺へのこれは…… きっと単なる気の迷い。 俺なんかの一体どこに惹かれてくれたのかは定かではないけれど、大人としてちゃんと諭して正しい道に導いてやるべきだ。 それにはまず、彼からの申し出にキチンと返事を返さなければ。 でも、とりあえず今日は…… 「………かなちゃん、俺……お酒飲みたい」 「…えっ!?…えーっと…、楓さん……まだ日沈んで無いんですけど…?」 「関係ない、今日は休み…飲もう」 「…………よし、乗った!」 かなちゃんは嬉々としてキッチンに駆けていく。そりゃそうか…かなちゃん、お酒大好きだもんね。 「楓さーんワインでいいー?」 「………いや、」 「え?」 「……ウォッカ、ストレートで」 「ハァ!?マジで!!?」 「かなちゃん…今日はとことん付き合って」 「いいけど…大丈夫なのか?」 「大丈夫じゃないけど、今日はお酒に…呑まれたい気分なの」 「なにそれ………色っぽ」 口には出さなかったけれど、どこが?と心の中で呟く。初めて会った時から思っていたことだけど…かなちゃんの感性は結構特殊だと思う。そういうとこも、かなり好きなんだけど。 ぼんやりしていた俺の前に、ドンっ!と大きな音を立ててキンキンに冷えたウォッカのボトルとショットグラスが姿を現す。 「冷凍庫に入れといて良かった…ライムもあるから今切るわ」 「………天才じゃん」 「あははっ!よく言われる!」 「でしょうね…!」 「へへ〜っあとで恭介来るし…2人でアイツ潰して遊ぼーぜ!」 「…あらまぁ…独特な愛情表現ですこと……」 「ふはっ…!愛の形は十人十色!みんな違ってみんないい…だろ?」 「うっわ…わっかりづらい惚気!」 「自覚してまーす!」 …結局この後、 俺が帰宅したのは夜中の3時だった。

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