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バイプレイヤーズロマンス【前編】6

「…っ」 「良かった…熱は…無いみたいですね」 「…そ、そりゃ…ただの…二日酔いなんで…」 「……なんだ…!…すみません、早とちりでした!」 「あ、旭くんっ…!」 「はい…?」 「俺なんかにそんなことしちゃダメっ…!」 「…えっと、なんでですか…?」 「なんでって…、だって…!」 「…ドキドキ…してくれてるように見えますけど?」 「へぇ!!?」 俺は慌ててソファから起き上がって、両手で頬を押さえる。すると旭くんはクスッと柔らかく笑って俺の隣に腰掛けた。それも…ゼロ距離でだ。 「あははっ…!すみません…ちょっと意地悪でした?」 「いや…あ、あのっ…旭くんにこんなことされたら…俺じゃなくったってドキドキ…するってば…」 「…でも僕…楓さんにしかしないですよ?」 「…え」 「楓さんにしか…したくありません」 「な…、に…それ…」 旭くんは俺の手に自分の手を重ねると、少しだけ眉を下げた。 「楓さん」 「……な…なに…?」 「ごめんなさい」 「え…?」 「……僕とのこと、少しでも良いから考えて欲しくて…言い逃げしたんですけど……悩ませちゃったみたいで…今、ちょっと反省してます…ごめんなさい」 悲しそうな顔で謝罪する旭くんに、こっちの方が申し訳ない気持ちになる。 俺が勝手にテンパってお酒飲んで、勝手に二日酔いになったんだ。だから、旭くんが謝る必要なんて全くない。 「そんな…!謝んないでよ旭くん…!俺昨日はちょっと飲みすぎちゃって…いや、あの…旭くんに言われたことに動揺しなかったって言うと嘘になるんだけど…」 「…でも…、」 「それにね…、俺、嬉しかったし!」 「え…?」 「俺…旭くんのこともはや人間として尊敬してるからさ…!だから、好きって言ってもらえて…嬉しかったのはほんとだよ?」 …それが例え、一瞬の気の迷いでも。 「でもね…旭くん」 「……はい」 「俺はやっぱり…君とは、付き合えないです…ごめんなさい」 「……」 旭くんの手からそっと自分の手を離して、頭を下げる。 …ごめんね。でも、ダメなんだよ…俺じゃ。だって…そんなの、 旭くんが勿体無いから。 「それは、僕が…まだ子供だからですか…?」 「あー………と、いうか……」 「年の差……ですか?」 「…えっと……うん……それも、もちろんそうなんだけど…それだけじゃなくて、」 「それとも…まだ…、爽くんのことが好きだからですか…?」 思ってもいなかった言葉に驚いて旭くんの顔を見ると、真剣な眼差しで見つめ返された。まさか旭くんにまで勘付かれていたなんて…。何かしら返事をしたいのに動揺で言葉が出てこない。 違う、本当に俺はもう…樋口には友達以上の感情なんてない。 勘違い…してほしくない。 色んな言葉が頭の中に溢れたのに結局何も喋れなくて、無様にも口をパクパクさせたあと…俺は下唇を噛んだ。 「すみません知ってました……楓さんが、爽くんのこと好きって……僕、最初から気付いてました」 「…い、いやそれは…!」 「…ごめんなさい…また、困らせて…でも僕っ…、」 「…」 「僕…絶対、爽くんより…良い男になります」 「…っ」 「だから、チャンスを……もらえませんか?」 拒否、しなきゃダメだ。 頭ではわかっているのに旭くんの情熱に気圧されて、どうしても拒絶の言葉が出ない。 だって、旭くんだよ……?誰が拒否できるっていうの…? こんな素敵な男の子にこんな風に迫られて…拒否できる人……いるの? 「旭くんっ……、ごめん……俺っ、」 「じゃあ……一度……デートしてもらえませんか…?」 「え……」 「僕を男として意識してもらった状態で……もう一度だけ、アプローチ…させてください」 「……」 「デート……しましょう…、楓さん」 相変わらずただただ口を開け閉めするだけの俺を見て、旭くんはニコッと笑う。 ダメだ……!!この笑顔に流されるな…!!! 拒否、しろ…!!!高校生とデートなんて…、絶対ダメだ!!! 「……あ、…あの、俺はっ…!」 「楓さん」 「は、……はいっ…」 「好きです」 「……っ、」 「大好きです」 「……あさ、ひくんっ…!」 「僕と……デートしましょ?」 「で、でもっ……!」 さっきより更に距離を詰められて頭が真っ白になる。 しっかりしろよアラサー…!!!高校生に押されてどうする…!! 心の中で必死に自分を鼓舞するけれど、目の前の男の子は折れてくれる気配がまるで無い。 ……困った。どうしよう…! 「ふぅ………やっぱ…デートってなるとネックなのは年齢のこと、ですよね?」 「……」 「…わかりました……じゃあ、デートじゃなくただのお出かけだと思ってくれませんか?それなら断る理由…ないですよね?」 「え……、あぁ…まぁ……確かに」 「よっしゃ!じゃあ来週の定休日おうちまで迎えに行きますね!」 「えっ!?来週!?まっ、待って…旭くん学校は!?」 「自宅学習期間なんで休みです」 「ああ…そうなんだ……あれ…?よく考えたら………来週の定休日って……!」 「はい!バレンタインデーです!」 「は!!?ちょ、それは…!」 ガチャッ 「楓さーんっ!!!じゃーんっ雑炊できたよ~!!!って、あれ…?」 「…わーお、すっごいタイミング~…やっほーあきちゃーん!」 「…あれ……旭!もう着いてたんだ………っていうか、え…?楓さん……なにその状況」 「………んぐっ…」 突然開いた扉にビビって慌てて旭くんから身体を離した俺は……謎のポーズのままソファの端っこでクッションに顔を押し付けていた。 だってしょうがないじゃん…!俺今……絶対変な顔してるもん!!! 「……?旭、楓さんになんか変なこと言ったの?ダメだよ…今楓さん二日酔いで具合悪いんだから」 「あー……うん、ちょっと…動揺させちゃったかも…」 「……?まぁ、いいや…ほら早く着替えてお店出て!もうすぐ開店だよ!」 「はーいっ!」 あきちゃんに向かってかわいらしい返事を返した旭くんは、立ち上がる間際俺の耳元に近寄って…… 囁いた。 『強引ですみません……結構必死なんです僕』 『……へ』 『楓さんが……大好きだから』 慌ててパッと顔を上げた瞬間俺の目に入ってきたのは…悪戯っぽく笑う爽やかな美少年だった。

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