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バイプレイヤーズロマンス【前編】7
「高校生とお出かけとか……一体何着ていけばいいんだよ…」
自分の口から出た台詞のあまりの犯罪臭さに、思わず頭を抱える。
俺、アラサーにもなってマジで何やってんの…?
旭くんから外出のお誘いを受けて1週間。
ひたすらソワソワしていた俺とは対照的に、旭くんの態度は1週間全く変わらなかった。もしかしたらあの告白自体俺の妄想だったのかと思うほど…本当に平常運転。それでも、こっちだって何もしなかったわけじゃない。この1週間、お出かけのキャンセルを申し入れようと幾度となくチャレンジはした。したには…したけど、俺が喋るよりも早く華麗にかわされまくって毎回見事にチャレンジ失敗。
彼はアレだ…前世闘牛士かなんかだと思う。
まぁ…そんなこんなであれよあれよという間に時間は流れていき、ついにデート当日を迎えてしまったわけなんだけど…
正直、かなり不安だ。
相手がどうこうと言う前に、誰かと2人きりでお出かけっていうシチュエーション自体久しぶりすぎて……手汗がやばい。
しかもあんな美少年の隣歩くとか…身の程知らずすぎて自分で自分に引く。大人としてちゃんと普通の顔…出来るのかな…。
俺…常々人からポーカーフェイスと言われることが多いけど、どういうわけか旭くんに対してはその仮面が通用しない事が多いみたい。だから余計…不安。
本当の顔も…本当の気持ちも…
本当の俺も…
旭くんには…絶対知られたくないのに。
なんとか服を見繕って、ロングヘアを軽くセットしたタイミングで…インターホンが鳴った。
すごい…時間ぴったり。旭くん…バイトも遅刻したことないもんなぁ。時間にキッチリしてるって意味ではあきちゃんも同じだけど。ほんと…一体どうやったらあんな性格のいいしっかりした兄弟が育つんだろ?日下部家は子育ての本出すべきだよ。絶対ベストセラーでしょ。
うだうだ考えながらも意を決してドアを開けると、いつもと同じ…いや、いつも以上に爽やかな高校生に微笑みかけられた。
瞬間、眩しさで眉間に皺が寄る。
このフレッシュな魅力は……高校生にしか出せないよなぁ……
「おはようございます楓さん!」
「お、おはよ~旭くん」
今日の旭くんは白のシャツに黒のワイドパンツ、その上に鮮やかなブルーのノーカラーコートを羽織っている。シンプルなコーディネートだからこそスタイルの良さが際立つ。爽やかの擬人化かこの子は。
旭くんの私服姿は今までも何度か見たことあるけど、いずれもシンプルでモードっぽい印象。いつもセンスいい。というか…180cm越えたらなんでも似合うよね。ギリギリ大台を越えられていない身としては…正直ちょっぴり羨ましい。
「わざわざ迎えに来てもらって…ごめんね?」
「いえ!全然です!と、いうか僕が来たかったんで!」
「あ…あははっ……旭くん……今日は一段と…、元気だね…!」
「そうですかね?楓さんは…今日もいつも通り素敵です」
「え…、あ…そう?えっと…ありがとう」
「……嘘です」
「へ…?」
「今日は…いつもよりさらに素敵です」
ニコッと笑った旭くんは、俺の髪の毛を指差す。
そっか…俺仕事の時は基本適当に結んでるだけだもんな。プライベートで旭くんに会うの初めてだから…ちゃんとセットした状態見られんのも初めてってことか…うわ、そう考えたらなんかすっごい恥ずかしい…!
「オフの楓さんが見れて、僕結構ドキドキしてます」
「え!?あー…そう?なんか、照れるなぁ…」
「あ…僕ちょっと正直すぎますか?」
「…い、いや…そんな…」
「すみません…楓さんかわいいから、つい舞い上がっちゃって」
「ええっ!?か…かわいい!?」
「ふふっ、はい…そんな驚くとこですか?」
「だ、だって…!!そんなこと言われ慣れてないからっ…」
「…?あきちゃんとか要くんとか…よく言ってません?」
「いや、それとこれとは話が別っていうか…!!」
「あー……じゃあ、僕に言われるのは特別ってことですか…?」
「へぇ!!?あっ、ちがっ…!」
「……ふっ…、あははっ!楓さん動揺しすぎです」
近距離で完璧な顔面に微笑まれて、グッと体温が上がる。
ちょっと待って……
ねぇ…なにこのやりとり…!!!
ニヤニヤしちゃうってば!!!おじさん長いことロマンスから遠ざかってるんだから手加減してよ17歳!!
俺は頭をぶんぶん横に振って、強制的に気持ちを切り替える。
「…えっと、車…出す!?というか…今日どこに…」
「あぁ…いえ!車は必要ないです」
「あ、そうなの…?」
「それと…」
「ん?」
「今日は全部、僕にエスコートさせてください」
サラリと出てきたその言葉に思わずドキッと心臓が跳ねる。
まずい…完全に旭くんのペースだ。今日どんなことがあったって、俺は最終的にお断りしなきゃいけない立場なんだ。それを忘れちゃいけない。…でもだからってわざわざ旭くんを傷付けたくもないし、あからさまに拒絶もしたくない。
俺、めちゃくちゃわがままなこと考えちゃってるな…
「楓さん…?」
「……え」
「大丈夫ですか…?」
「あ、うん!!大丈夫!行こっか!!」
「はい!」
外に出ると、風がかなり冷たくて思わずマフラーに顔を埋める。今日は…天気はいいけど、気温は低めみたい。手袋…持って来ればよかったかな。
他愛もない会話をしながら並んで歩き、旭くんに促されるまま最寄りの駅から電車に乗った。
旭くんは相変わらずいつも通りで、俺もだんだんと心拍数が平常に戻っていく。
そんなに…身構える必要もなかったのかな……。俺にとってこれは…ただのお出かけなわけだし。"デート"なんて言ってもらえて嬉しかったけど、浮かれてちゃダメだよね。俺は…大人なんだから。
ぼんやりしながら、ふと…隣に視線を向けると車窓から何気なく外を見つめる旭くんが絵になりすぎて、驚いた。なんか…アイドル雑誌のページを切り取ったみたい。
そのままなんとなく、横目で見つめていると…彼を盗み見ているのが自分だけではないことに早々に気付いた。
おっと……これは……
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