165 / 202

バイプレイヤーズロマンス【中編】5

「旭…楓さんと付き合うの?好きって伝えたんでしょ?」 「……伝えたけど…返事、まだ聞いてない」 「ふーん……でも、付き合うんでしょ?」 「さぁ…どうかな……正直恋愛対象として見てもらえてるかもわかんないし…完全に僕の片想いだよ」 「え!?そうなの!!?」 「うん」 どうやら伊吹は今回のことをそんなに詳しく聞いていた訳ではないようだ。 これも、要くんの配慮…かな?あの人の気配りには本当に毎回舌を巻くよ。生き方も他人への接し方もかっこよすぎる。 僕は伊吹と違って要くんに恋愛感情を持っている訳じゃないけど、単純に…人として憧れてる。あんな大人になりたいなって心から思うし、要くんがこの先どんな人生を歩むのかすごく興味がある。それに…伊吹には悪いけど、僕は和倉さんと要くんカップルが大好きだから…永遠に夫婦漫才繰り広げてて欲しいな~っなんて密かに願ってたりもする。 「ってか…旭を恋愛対象として見ないやつなんてこの世にいんの!?」 「そりゃいるでしょ」 「誰!!!?」 「…え……あー……あ、伊吹とか?」 「え?私?」 「うん」 「ええ~~~~~っ旭がどうしても私と付き合いたいって言うならぁ~~前向きに考える準備はあるよぉ~~?旭、綺麗な顔してるし!私の中の顔面合格ライン余裕で越えてる!ウフ!」 「……ちょっと…マジで想像させないで」 「ブハッ…!!冗談だって~私たちマブダチじゃーん!」 「最低の冗談なんですけど」 「私だってやだよ~今はかなちゃん一筋だしぃ?」 伊吹はケラケラ楽しそうに笑うけど、こっちはもうげんなりだ。相談聞いてくれるどころかからかって遊んでんじゃん…全くもう。 「にしても……まさか"あの"旭くんと色恋関連のお話が出来る様になるとはね…なんだか感慨深いなぁ…」 「え……なんで?前からしてたじゃん」 「そりゃ私の話はね!?旭のこういうの聞いたのは初めてだよ!ぜんっぜん教えてくれなかったじゃん!あ……もしかしてこれが初恋とか!!?キャーーーッあがるーーー!!!」 「………いや、それは……違うけど」 違う…けど、違くない…のかもしれない。 もちろん今まで長い長い不毛な片想いはしていたけれど、今回は…今までのものとはまるで違う。 自分は脇役だと割り切っていた前の恋とは…明らかに違うんだ。 どうしても……どうしても僕は、楓さんじゃなきゃダメなんだ。 もしかしたら伊吹の言うように、この恋は僕にとって……"初恋"と呼べるのかも。 「はぁ~あ……」 「んー?」 「前途多難すぎて頭痛いよ……」 「…そう?私はなんだかんだイケると思うけどな」 「なにそれ…すっごい適当」 「いやいやいや適当じゃないって!旭なら絶対楓さんをゲット出来る!!」 「ゲットって……ポケモンじゃないんだから……」 頭を抱える僕に、伊吹は爆笑しながら"うまい!!座布団1枚!!"と叫ぶ。いらないっての。勝手に笑点始めないでください。 「なるほどねぇ~……旭って、恋するとこんな余裕無くなるのか……キャラじゃなさすぎてビビるわ」 「キャラって……なんていうかさ、例え楓さんの恋愛対象になれたとしても…僕には越えなきゃならない壁がたくさんあるから…」 「壁?」 「うん……僕の年齢とか…年の差とか…あと……楓さんの好……」 「…え?」 「ああ…、いや、なんでもない」 言いかけて、咄嗟に口を噤む。 楓さんが爽くんに片想いしてることは……きっと誰にも言わない方がいい。僕自身も、わざわざ話題になんてしたくないしね。 伊吹はポカンと口を開けて不思議そうな顔をした後…少々考え込んで、ポンっと漫画みたいに手を叩いた。 「よし…!じゃあ~次の一手は一択だね?」 「え…なに?」 「そりゃデートしかないっしょ!仕事場以外の場所で、改めてアプローチかけまくりなさい!」 「……それは、僕も考えてたけど……」 「え?そうなの?」 「うん……でも、勢いで先に気持ち伝えちゃったから……デートに誘っていいのか正直迷ってて……」 「え!?迷うことある!!?」 「だって……きっと楓さんも、まだ戸惑ってるし……」 「だから今言うんじゃん!!!戸惑ってるなら、可能性はゼロじゃないってことでしょ?ちゃんとデートに誘って、ちゃんとエスコートして、自分と付き合うことのメリットを100%相手に示して…それで改めて告白すればいいんだって!諦めるのはその後でも遅くなくない?」 「………そう、なのかな……」 「うんっ!旭の今の気持ちをちゃんと伝えれば…楓さんだって真剣に考えてくれるよ!」 「………」 「ね?」 ニコッと首を傾げて笑った伊吹に、恋愛マスターもあながち間違いじゃないのかも…なんて思えてしまった。いつものことながら、口うますぎ。 毎度アホなことしか言わない癖に、人が困ってると確信ついたこと言えちゃうんだよな…伊吹は。だから、こんなにみんなからモテるんだと思う。 「……ありがと」 「…!やだぁ~!!旭素直じゃーん!!!ね、とりあえずこの後ご飯行かない?バイトまでまだ時間あるでしょ?」 「ええー……まぁ、少しなら……」 「よっし行こ!!」 「えー…」 「なんでそんな嫌そうな顔すんの!?旭くんつめたーいっ!!!」 「だって伊吹……僕といると絶対ナンパし始めるじゃん……」 「そりゃそーだろ!旭といる時の勝率は体感10倍!!!君は自分の外見の良さをもうちょい利用すべき!!!」 「……うーわ…要くーーん!!!マジさいってーなんですけどこの人ーーーっ!!!」 「いやさすがに今日はしないって!!!」 「…一生しないでよ」 「ほら行こ!!!マック!!!」 「……マックなの?」 「うんっ!!ポテト食べたい!!」 「……はぁ、仕方ない…行くか」 「やったー!!」 全く何しに来たんだ…と突っ込んでやりたかったけど、おかげでモヤモヤしていた気持ちが少しだけ軽くなったから…良しとしよう。 連行された先でも、伊吹は意外と僕の相談を真面目に聞いてくれて……改めて楓さんをデートに誘う決意が固まった。 それから約1時間後、 伊吹と別れてバイト先に向かった僕は、従業員入口の扉を開けた途端驚きで目を見開いた。 なぜなら、大好きで大好きで堪らない人が真っ青な顔でソファに横たわっていたから。 正直めちゃくちゃ焦ったけど…どうやら二日酔いだったみたいで……安心した。…と同時に、かなり反省。相当悩ませちゃったみたいだ。 僕の好きな人は……心底優しい人だからきっと僕が想像しているよりずっと色んなことを考えてくれたんだと思う。だから、お酒に頼りたくなる気持ちもわかる。僕だって飲める年齢なら絶対飲んでる。 起き上がった彼から出てきた言葉は……やはり、拒絶。正直、その場で泣き崩れたかった。だけどそれ以上に諦めたくなくて…… ただ、もう一度だけ僕のことを考えてもらえる時間が欲しくて……デートの提案をした。 粘りに粘ったし、かなりズルい手も使ったけど……最終的には無事1週間後に楓さんとのバレンタインデートの約束を取り付けることに成功。少々強引ではあったけど、あのまま振られるよりはずっとマシ。 これで、自称恋愛マスターに相談した甲斐もあったってもんだ。 このデートが僕にとって、最後のチャンス。 そこから1週間、楓さんの…所謂"デートお断り攻撃"を散々回避し続けた。ここで断られたら全てが水の泡な訳だから、僕も毎日必死だった。その回避と並行して相当色々リサーチしてデートの計画を立て、楓さんが僕といることに少しでも喜びを感じてくれるように……ただ、楽しいという感情だけで満たされるように……細心の注意を払った…… つもりだった。 僕はただ、楓さんと一緒に過ごして…彼の喜ぶ顔が見たかっただけ。 だから、念願の初デートでまさかあんなことが起きるなんて……… 思ってもみなかったんだ。

ともだちにシェアしよう!