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ミスターバイオレンスの遺言【前編】9
「ああああああああーーーーっ!!!!!」
「!!?」
「ウワァーーーー!!!はじめましてぇーーー!!!もしかしなくても要の妹!!?」
「「エッ」」
俺と爽の声が綺麗に重なった。
いくら俺と菫の顔がそっくりだからってあまりにも理解スピードが爆速すぎる。このスピードは元から俺に妹がいると知っていなければまず有り得ない。
暁人はそのまますごい速さでソファに向かって突進していき、俺と爽も慌ててそれを追う。まさかの展開に俺も爽も全然ついていけてない。もちろん菫のそばにいた恭介もポカンとしている。
「うわぁあ~めちゃくちゃかわいいっ…!要と一緒でお母さんそっくり…!!お名前なんて言うの?」
「…!あ、あの…菫です…」
菫も当然呆気に取られている。
…そっか、暁人は俺に出会う前からおふくろのファンだもんな……俺たちがおふくろに生き写しだってわかるのも頷ける。けどそれが妹の存在を知ってる理由にはならないから、みんなの困惑は続く。
「菫ちゃんかぁ…お名前もかわいいねぇ~!わぁっこのワンピースお母さんの手作り?これ販売されてないよね?子供服のラインも新作チェックしてるけど載ってなかったし…わっ!作り込みめちゃくちゃ細い…!すごーい!」
「は、はいっ…!そうなんです…ママが菫のためにデザインして…パターンから起こしてくれたもので…」
「ええっ!!?すごっ!!そんな貴重なものを生で見られるなんてめちゃくちゃ贅沢~!!!菫ちゃんにすっごく似合ってる!!!さすが結城 可憐様!!!天才っ!!!」
「ほんとですか!これ、菫の一番のお気に入りなんです」
興奮気味に話す暁人に最初こそ驚いていたが、暁人のやわらかい雰囲気と天真爛漫な明るい声に菫の顔にもだんだんと笑顔が溢れる。そして…いつの間にか両手を握り合っていた。いや打ち解けんのはやっ。暁人の持つとんでもない人たらしの才能を垣間見てしまった。なるほどなぁ…暁人って小さい子にはこんなにすぐ心開くんだ…初めて知った。
爽も同じように感じたのか、隣からクスクスと笑い声が漏れ出す。
「ふはっ…!立ちっぱなしで何してんだよ…あき、とりあえず菫の隣座ったら?」
「あっ…そうだよね!!つい盛り上がっちゃって…菫ちゃんお隣座ってもいい?」
「もちろんです…!」
「えへへ~やった~」
いつにも増して満開の笑顔の暁人が菫の隣に腰掛ける。かわいいの隣にかわいいが鎮座するのはなぜこんなにも心が躍るのだろう。1人でも最高なのに2人合わせたらもう無敵かもしれない。今とてもつもなく斬新なデザインが降りてきそうだ。…いや、いやいやそんなことしてる場合じゃなかった。
ウズウズと動き出しそうな右手を必死に押さえつけ、俺はこの場の全員がしたいであろう質問を暁人へ投げかけた。
「なぁお前…俺に妹がいること知ってたのか…?」
「え?」
「だって…妹の存在知っても全然驚いてるように見えなかったから…」
「ああ…うん!知ってたよ!」
「えっ!?なんで…?爽からも聞いてないなら一体誰から…」
「俺要のお母さんのSNS全部フォローしてるから」
「………は?」
「今日本にいることも知ってたよ」
暁人はピースサインを俺に見せながらにこにこ笑う。出会った時からおふくろのファンだとは聞いていたけれど、まさかSNSをチェックするほどとは……
というかうちのおふくろSNSそんな頻繁に更新してんのか?俺でも個人アカウントは作っただけでほとんど手付かずなのにあの人マジで若いな。
菫は俺たちの会話を黙って聞いた後、ジッと暁人の顔を覗き込んだ。
「j'ai été surpris…」
「えっ…えっ?」
「……なるほどぉ」
「……えっと…菫ちゃん今のどういう…」
「あき…さんって…私が今まで会った全ての人の中で一番かわいいです」
「えっ!そ、そう!?それは何というか…ものすごく嬉しいな…!でも…もっと他にいると思うよ?それこそほら、要とか」
「お兄様は美しいんです、あきさんは…かわいい…とってもかわいいです」
菫の言葉に爽と恭介も大きく頷く。当の暁人はわかりやすく照れているが、菫の方はマジな顔をしている。思わずフランス語が出ちゃうくらいには"驚いた"みたいだ。
ちなみに菫の暁人への感想には俺も完全同意。暁人よりかわいい人類なんていない。それに普段からおふくろの仕事にくっついて世界中のスーパーモデルやらハリウッドセレブやらを見て目が肥えまくってる菫が言うと説得力が違う。この子の審美眼は間違いなく超一流だ。
「要お兄様の親友さんがこんなに素敵だなんて…菫とっても嬉しいですっ!」
「い、いや~そんなそんな…!照れるなぁ~」
「それにあきさんは爽お兄ちゃんの彼女さんなんですよね?」
「………え?」
"彼女"という単語に一瞬空気がピシッと固まる。
……やべ。確かに、暁人が男だとは言うの忘れてた…。出会った頃程じゃないにしろ暁人って自分の女顔嫌がってるからな…これは事前に伝えてなかった俺が悪い。
またしても眉間に皺の寄った俺を見た恭介は、ニコニコと菫の肩を叩く。どうやら助け舟を出してくれるようだ。
「あ~…えっと菫ちゃんあのね、こちらの"あきさん"のフルネームは日下部 暁人…こう見えてバリバリの日本男児なんだよね」
「………へ?」
「うん…つまり、暁人は爽の彼女じゃなく"彼氏"なんだ」
「あはは…恭ちゃんわざわざ説明させてごめんね?えっとね菫ちゃん…俺よく女の子に間違えられるんだけど…男なんだ」
「えっ……ええっ!?あっ、ごめんなさいっ!すごくかわいいし…それに爽お兄ちゃんの恋人さんだって聞いてたので…てっきり…!」
「いやいやいや全然!!!菫ちゃんは悪くないよ!?そうだよね!そう聞いてたら普通女の人だと思うよね!!」
「でも菫っ…すごくすごく失礼なことを…!」
「ううんっぜんっぜん!!!俺ほんとにいつも間違われるし紛らわしい自覚あるから…」
「でもでもっ…菫が…」
菫と暁人は見つめ合いながら必死に謝罪合戦を繰り広げる。完全にミスった。焦りまくる2人を止めるべく俺が間に入るより先に、爽が素早く暁人の肩に手を伸ばした。
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