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ミスターバイオレンスの遺言【前編】10

「はーい2人ともストップ」 「…爽」 「あきそんな焦んなくて大丈夫だって…」 「え、…え!?ちょ、」 「いいか?よく聞けよ?」 「は!?」 爽は暁人を引き寄せると自分の腕の中にすっぽりとおさめる。それに少々抵抗して見せるのは、暁人の僅かな羞恥心のあらわれ。このゴーイングマイウェイ王子の前じゃ無駄な抵抗すぎるけど。 この2人の公開イチャイチャに慣れっこの俺と恭介はまたかという顔で見守るが、菫はそうじゃない。今から何が始まるのだろうという期待と、照れと、困惑が混じり合った複雑な表情を浮かべている。 「あきが世界一かわいいのはみんなわかりきってんだから男とか女とかマジでどうでもいいし…それにほら、フランスは結構前から同性婚出来んだから菫は別に偏見とか全くないと思うぞ?」 「えそうなの?」 「へんけん…?」 「あ~えっとな……つまり菫は男同士が付き合ったり結婚してたりしてもなんとも思わないか聞きたかったんだ」 「はいもちろんです」 勢いよく首を縦に振る菫も結構必死な顔だ。 それを見て暁人も僅かにホッとした表情を見せた。暁人は良くも悪くも真面目だからな。自分が…というよりも爽が同性で付き合っていることでなにか言われたりしないかっていつも気にしている節がある。それを爽もわかっていて、なんとか安心させようと常に愛を伝え続けているんだろう。2人とも不器用で、そこがとても愛しい。 「っていうかさ…それ以前にほら、俺とあきって…どう見ても超お似合いだろ?」 爽はイタズラっぽくニコッと笑うと、潰れそうな勢いで更にギュッと暁人を抱きしめた。ついでに赤くなった耳にキスを落とせば、暁人はジタバタと暴れ出し菫は真っ赤になって喜ぶ。傍観者を決め込んでいたはずの恭介もとうとう腹を抱えて大爆笑中。 ……おい王子…それはちょっと教育にわりーだろうが。 「ちょっと爽!!!?なに!!!?」 「なにってなに?」 「近い近い近い!!!みんないるから!!!」 「だからなに?可愛がってるだけじゃん」 「なんで今可愛がるの!!?意味わかんないから!!!」 「それはほら…サービスだよサービス」 「なんのサービス!!?」 「えー?ふふっ…なんだろ…?」 「なんだろじゃないってば!!!?あ、もうっニヤつくなぁ!!!」 「あはっ…!あきは今日も世界一かわいいね」 「はぐらかすなっ!!!」 ゼロ距離で豪快にいちゃつき始めるバカップルに俺もさすがにゲンナリ。なんか、久しぶりにここまで甘ったるいもん見せられたな…切実に金取りたい。ため息を吐きまくる俺とは対照的に、菫はなぜかめちゃくちゃ喜んでいる。っていうかなんかワクワクしてる…? しばらく考えて、ようやく理由に行き当たる。そっか…この2人って作画が完全に少女漫画の王道カップルだもんなぁ…おませな女の子からしたら理想の姿なのかも。 「あきさんと爽お兄ちゃんらぶらぶなんですね!」 「お、菫わかるか?」 「はい!なんか菫までドキドキしちゃいました…!」 「俺の恋人かわいいだろ?」 「はいすごく!!!あきさんめちゃくちゃかわいいです!!!」 「だよなぁ!」 「ねぇ2人ともマジでやめてっ!俺ほんとマジで恥ずかしい…」 暁人は両手で顔を隠しながら身を捩る。それでも顔中真っ赤なのは全然隠しきれていなくて、その爆発的に愛らしい姿に爽のニヤニヤは止まらない。加勢するかのように菫の『あきさんかわいい!』攻撃も続き、暁人はとうとう根を上げた。 「うああああーっもうだめだっ!要助けてっ」 「は?えっ俺!?」 なんとか爽の腕の中から抜け出した暁人は慌てて俺の後ろに身を隠した。すかさず爽からの不満そうな視線をビシビシと全身に感じて頭を抱える。 痴話喧嘩に俺を巻き込むんじゃねーよ。いや…痴話喧嘩っていうかこれただのバカップルのいつものイチャイチャだよな。マジで俺可哀想。 「あのなぁ暁人…いくら俺でもこの顔した爽からお前を助けんのは無理」 「ええっ!!?要が降参!!?」 「降参」 「嘘だよ!いつもは爽なんてワンパンで沈められるって言ってるじゃんっ絶対めんどいだけじゃん~!!やだ~要助けてよー!!」 「ゲッ…バレてる……でもマジな話爽ってお前が関わると戦闘力が何倍もあがるしさ…」 「あー!わかるぅ!!爽って暁人に関わることのみとんでもなくバフかかるよね!!」 ようやく笑いがおさまったらしい恭介の言葉に大きく頷く。普段ならゲーム脳すぎるだろって切り捨てたいところだけど、この状態じゃあまりにも言い得て妙だ。 「ば…バフ…?恭介さんバフってなんですか?知らない日本語…」 「えっとねぇつまり…ステータスが一時的に上がるっていうか…」 「こら恭介菫に変なこと教えんな!菫はゲームとかやらないだろうし絶対一生いらねぇ知識だろ」 「ええっそっかなぁ?」 「うんメモリーの無駄遣い」 「あははっ!!かなだって大概じゃん」 しまった。俺としたことがついうまい返しを…。 ってかこんなことしてる場合じゃねーよ。暁人にちゃんと話さなきゃだろ。 いつもよりだいぶ大きめのため息をつきながら振り返り暁人の顔を覗き込む。暁人は一瞬キョトンとしたがすぐにハッと何かに気が付いたようで、ニコニコして俺の言葉を待つ。 チッ……察しがよろしいことで。俺の親友様は今日も憎たらしいほどかわいいなチクショウ。 「爽」 「ん?」 「ちょっと暁人借りるわ…2人だけで話したいから菫のこと頼むな」 「……いい………けど」 「?けど…なんだよ?」 「………あきに変なことすんなよ?」 「するかっ!!お前と一緒にすんな!!」 「ぶはっ…!冗談だろ」 キレのいいツッコミに爆笑する爽と恭介、そしてかわいらしく手を振る菫を置いて俺は暁人の腕を引きながら廊下に出た。相変わらず細く白い腕だ。細いけどガリガリって訳じゃない。ちゃんと筋肉もついているし、女のような柔らかさは感じない。ちゃんとした青年の腕だ。出会った頃はもっと華奢だったのに、気が付かないうちに随分大人になったんだな…。こういうふとした時に、やっぱり暁人は"男"なんだと実感して内心少しだけドキッとした。顔面の可憐さとのギャップに。

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