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ミスターバイオレンスの遺言【前編】12

「これってね要が俺に"幸せになれよ"って言ってくれた時からね…決まってたんだよ?」 「…え?」 「要の家族は俺にとっても大事な人ってその時に決まったの」 「……」 「だから、菫ちゃんも要のお父さんとお母さんも俺は大切にするよ」 ぼやけていた視界が、一瞬クリアになる。同時にボタっと音がして大粒の涙が落っこちて行ったことに気づいた。すかさず暁人はハンカチを取り出して、擦らないように優しく目元を拭いてくれる。 心がじんわりあったかくなって、思わず暁人を抱きしめた。トクトクとゆっくりと響く暁人の心音が心地良い。やっぱり恭介と抱き合う時と全く違う、穏やかな音。純粋な愛の音。曇りのない安らかな音。 暁人だけの音。 「…暁人、」 「ん…?」 「……俺、お前のことめっちゃ好き」 「ふふっ…!嬉しっ…俺も大好きだよ」 「俺っ…一生お前のこと好き…ずっと好き」 「あははっ要はかわいいねぇ~俺も好きだってば~!」 ぎゅーっと抱きしめ合いながら、2人して好きを連呼する。俺きっと、生涯で"好き"と言葉で伝えるのは恭介より暁人の方が多いと思うんだ。なんでお前の前じゃこんなに素直になれるんだろう。不思議だ。 「はぁ…なんか全部話したら気抜けた……」 「最初から全部言えばいいのに…ほら、ワインの時もそうだったじゃん要って俺に対して過保護すぎ」 「だって…」 「まぁ今回の件はワインの時と違って要自身が積極的には話したくない内容だったわけだから…別にいいんだけどさ」 「………うん」 「ふふっ…全く…秘密の多い男だなぁ要様は」 「…もうねぇって…それにミステリアスでいーだろ?」 「あはは、うん…超セクシー」 「なんじゃそりゃ」 俺のツッコミに腕の中の暁人はケラケラと笑う。かわいい。 そういえば…変なことすんなよって爽に言われたけど、抱きしめんのはセーフだよな?……え?アウト?チッ…めんどくせーな……ならもういいや!とことんアウトにしとこ! 「……なぁ暁人」 「ん?」 「一旦ちゅーしとく?」 「……………ハイ?ナニイッテンノ?」 「俺今すげーお前にちゅーしたい」 「はぁ?えっ?なんでそうなんの??冗談だよね?ってか…要キス出来ないじゃん!」 「……まぁ、そうなんだけど…友情の接吻はいけっかもだろ?試してみよーぜ」 「……言われてみれば確かに……って、いやなんで!?なんで試す必要あんの!?ないよね!?ないから!!」 「あーうるさっ…いいから黙っとけよ」 「黙れるかっ!!なんなんですかその少女漫画みたいな強引さは!?血筋ですか!?樋口 爽くんと同じ血ですか!?DNAに刻まれてるんですか!?」 「……それはちょっと遺憾です」 「要の中の爽の地位が低すぎて笑えない」 パニックの暁人を放置して俺は少々考え込み、すぐに最適解を見つけた。暁人の顎を掴みクイっと上に向けるとそっと顔を近付ける。そばかすひとつないサラサラ艶々の真っ白なお肌と形のいい薄ピンクの唇とのコントラストが美しい。一瞬、毎日この唇に好きなだけキスしまくってる王子の顔がよぎったけど俺はそれでもやめる気はなかった。 「えっえっえっ…!ちょっと待って…!マジじゃん!?要マジの目してるじゃん!楓さんみたいに冗談なんじゃないの!?俺で遊んでるだけでしょ!?そうだよね!?」 「マジだって言ってんだろ…目閉じろよバカ」 「閉じれるかぁっ!!!まって、まてまてまてほんとにまって!!!」 盛大に焦る暁人に近距離で笑いかけ、最後にちゅっと音を立ててキスをした。 あ、もちろんほっぺにな? 「ひ、」 「…?ひ?」 「ひぇえ……死ぬほどドキドキした…!マジで口にされるかと思った…」 「……ぶはっ…!なんだよそれ…しねーよ口には」 「だってっ!忘れてるかもだけど…要ってすっごくすっごく綺麗なんだよ!?無駄にドキドキさせないでよ!!!」 「忘れてねーよ俺はいつも綺麗だっつの」 「謙遜しないとこも好きなんだけど!」 「俺もお前のそういうとこ好き」 「両想いじゃん!」 「だよな?じゃあお互い彼氏とは別れて、俺たち付き合ってみるってのはどうだ?」 「………いいよ?」 「………」 「………」 数秒間見つめ合って、次の瞬間盛大に吹き出す。ありえねー冗談の応酬にもう耐えきれない。やっばいこれ爽に見られたらいよいよ俺殺されそう。 ようやく爆笑の波が去った後も、なんとなく距離感をそのままにべったりくっついていたら暁人がハッと何かを思い出したようで俺の手を握りしめた。表情から察するになにやら切実そうだ。 「あ!!!」 「うるっさ…!お前ゼロ距離でいきなりでけー声出すなよ鼓膜吹き飛ぶわ」 「ごめんごめん!俺要に聞きたいことがあったのすっかり忘れてた!」 「え、なに?」 「あのね、あー…うーん…なんて聞けばいいのかな…えっと…その…結城の……」 暁人が何かを言いかけた瞬間、キィ…とゆっくりドアが開く音がして途端にドス黒いオーラが部屋に充満した。振り向いて確認しなくったってわかる。これはまずい。慌てて暁人から身体を離そうとするが完全に手遅れ。暁人も暁人で全てを察して黙って俯いてしまっている。おい、助けろ。現実から逃げんな。 「要……お前いい度胸だな…」 「あー…そりゃあもう…俺って度胸だけが取り柄なんで…ってか爽くんはノックくらいした方が」 「あきに変なことすんなって言ったろ…?俺言ったよな?」 「………いや変なことはしてねーよ?」 苦しすぎる嘘に暁人も目を細めて微妙な表情を浮かべている。オイお前まで俺を責めんな。いや…まぁ、抱きしめるのはまだしも、ほっぺにちゅーは完全にアウトだよな。ごめん。けど爽にはバレてないからいいや。 「してるだろこの状況がすでに!!!まず近い、そして近いだろ、その次に…やっぱちけーからあきから離れろこのやろー!!!」 「声でっか…」 「お前だから今手出してねーけどお前以外の男だったら腕の2本や3本へし折ってるところだっつの!!!」 「あ?やれるもんならやってみろ!!!大体俺の腕は2本しかねーよ!!!!化け物扱いか!!!つか親友なんだからこんくらい普通だろ!!お前と恭介だって会うたびイチャイチャしてんだろーが!!」 「ハァ!?してねーよ!!!気色悪いこと言うなっ!!!なんで俺が恭介と」 「オイその恭介と付き合ってる俺が可哀想だろ!!!俺に謝れ!!!いますぐ謝れ!!!」 「ちょ…、爽も要もやめてよストップー!!!!全く関係ないのに罵倒されてる恭ちゃんが不憫すぎて俺が泣きそうなんですけど!!!」

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