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ミスターバイオレンスの遺言【前編】13

必死に叫ぶ親友は、顔を真っ赤にしながら物理的に俺と爽の間に割って入る。どうしたってこの美少年には逆らえない俺たちは数秒の沈黙の後お互いの顔を見合って、ほぼ同時に『ごめん』と呟く。 爽とは小さい頃から基本的には仲がいいけど、こんな風にアホな喧嘩をするようになったのはごく最近のことだ。暁人が俺の親友になり、同時に爽の恋人の座におさまってから。暁人のおかげで以前よりずっと爽に会う機会が増え、仲が良くなってしまった故にお互い言いたいことをズケズケ言い合いしばしばこんなしょうもない諍いを起こしている気がする。それも決まっていつも暁人のことで。だって爽って暁人が関わらなきゃ普通にいい奴だもんな。 それはそうとさすがにちょっと怒鳴りすぎた。特にこの場にいない恋人への理不尽な言動については、うん…まぁ、あとで反省しよう。 やっと剣を納めた俺たちはプンプンと可愛らしく怒る暁人を見て苦笑い。どう考えてもいい歳した親戚同士でやることじゃなかった。 微妙な空気が漂う中、爽の後ろに小さな気配を感じた。王子の背中からひょっこり顔を出したのは…我が愛しの妹君様。美しいブロンドを揺らしながらまん丸の目でこちらを見る菫はあまりにも無垢だ。まるで何も描かれたことのない真っ白なキャンバスのよう。 「あの…要お兄様…?」 「あっ……、菫」 「どうしたんですか…?なんかすごい大きな声が聞こえて…もしかして爽お兄ちゃんと喧嘩に…」 「いや…いやいやなんでもない!全然大丈夫!俺ら喧嘩なんてしてないよ!な、爽!」 「もちろんしてないよ完全に菫の勘違い!俺らすっげぇ仲良しだから」 「…そう、なんですか?」 苦しすぎる言い訳にピクリと眉毛が動いてしまう。爽のやつ無駄に頭いいくせに苦し紛れの言葉が『仲良し』ってなんだよ…小学生か。 不思議そうに首を傾げる菫の隣には、なんだか遠い目をした俺の恋人が立っていた。無言で悟りを開いていそうな恭介を見て、先ほどの会話が全て筒抜けだったことがわかる。菫にはちゃんと聞こえてなかったのになんでお前は全部理解した顔してんだよ。とんでもねぇ地獄耳だな。 「わぁ恭ちゃん菩薩みたいな顔してるね」 「暁人…かなのドSも慣れれば快感なんですよね…ウフフ…」 「げ、お前そっちの方向に悟り開くなよウザっ」 「チッチッチ!こんなことでショック受けてちゃ結城 要様の隣になんていれないんで」 「すげードヤ顔」 1ミリも堪えてなさそうな恭介に、俺だけじゃなく爽も暁人も笑ってしまう。このネバーギブアップ精神本当に羨ましい。元々メンタルの安定した男だとは思っていたけれど、ここまでくるともはや心臓に毛が生えていそうだ。こうなるとコイツを凹ませる方が大仕事だ。常にスターをゲットしたマリオを相手にしてるようなものだから、俺の攻撃なんてものは無に等しい。どんなに汚い言葉を投げかけても恭介からのアンサーはいつだってかな大好きかわいい愛してるになるなら一体どうしろと?俺がどう言おうが恭介の忠誠心も愛も頑として揺るがないのだから、もうこれは半分狂気だ。 「かな、時間いいの?」 「え?」 「ほら菫ちゃん実家まで送って行くって言ってたでしょ?結構いい時間だから大丈夫かなって」 「……うわ、もうこんな時間かよ」 暁人の部屋のかわいらしい掛け時計を見て驚いた。早いとこ菫を家に帰さないと最悪おふくろから鬼電攻撃を受けることになる。それだけは避けたい。 隣の親友を見下ろし、ピョコピョコと動き回る前髪ごとくちゃくちゃにかき混ぜる。暁人は笑いながらやめてよ~と呟くがお構いなしだ。だってこれはお前への感謝の印だから。たぶん暁人もそれをわかってて笑っている。当たり前のように爽からの視線をチクチクと感じたような気がしたけど、それもやっぱりお構いなし。 暁人はお前の男であると同時に俺の親友なんだからいいだろ、と心の中で反撃してから菫の手を引いて玄関に向かった。 玄関に着くと、菫と暁人が名残惜しそうに両手を握り合う。もっと話したかった~と言い合っていてかわいい。それを俺と恭介で静かに見守った。この組み合わせやっぱ最高。 ぼんやりしていたらなぜか爽に手招きされたので自分を指差して首を傾げる。爽が小さく頷いたのを見て仕方なく近寄ると、周りに聞こえないように爽が俺の耳元に囁いた。 「おい要」 「なに?爽まだ怒ってんの?」 「いやそれは違うけど」 「じゃあなに?うげ…すっげー仏頂面だな…王子様の名が泣くぜ」 「誰も名乗ってねーよ」 そりゃそうかもしれねーけど、周りがみんなそう認識してんだからしょうがないだろ。爽的にはこのプリンススマイルに落ちて欲しい相手はこの世に1人しかいないのだから迷惑な話なのか。 「あのさ…菫のことだけど」 「え?」 「ちゃんと…見といてやれよ?」 「どういう意味だよそれ」 「どういう意味って……だってお前…6歳にしちゃ言葉遣いとか仕草とか思考も全部…あまりにも大人びすぎてるだろ菫」 「え…?まぁ…そうかな…?」 「そうだって!あれたぶんフランスでかなり厳しく教育されてんだろ…大丈夫か?なんか昔の要を見てるみたいだ」 爽にそう言われるまで昔の自分のことなどすっかり忘れていた。でも確かに、幼少期の俺はかなりませてたって爽の母親に聞かされたことあったっけ。本ばかり読んでいたことは覚えているけれど。…ああ、そう言えば俺の大人びた言動に実の父親がめちゃくちゃ気味悪がったこともあったな。そうか…菫も英才教育受けてかなり達観しちゃってんのかな。 「要は小さい時からなんでも要領良かったし器用で頭も良かったから環境に順応出来てたんだろうけど、菫も同じように出来るとは限らないだろ?だから気にかけてやれよ」 「……うん」 「俺もたまに連絡入れるからさ」 「そっか…ありがと」 素直に感謝を口にすると爽がこちらを見て小さく微笑んだ。ついでにポンっと肩を叩かれて、なんだかダメ押しされた気分になる。全く末恐ろしい王子様だ。冗談みたいに整った顔面だけでも十分この世で無双していけると言うのに。それだけじゃ飽き足らずこんなことまで言われちゃ、コイツがみんなからモテることを認めざるを得ないじゃないか。 「クソ人たらしバカップルめ…」 「あ?なんか言ったか?」 「チッ…独り言だよ!どうぞお幸せに!」 「……はぁ?」

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