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ミスターバイオレンスの遺言【後編】9
途端に俺の身体は宙に浮く。尻の下から恭介の逞しい両腕に抱きあげられ壁に押し付け返される。何か文句を言う前に下から突き上げるようなキスが始まった。舌は入っていないものの、食べるみたいに何度も何度も恭介の唇に飲み込まれる。油断すると下に落ちてしまいそうで、俺は必死に恭介の首元に手を這わせてしがみつく。吐息を漏らしながら角度を変えてひたすら繰り返される行為に慄いて少しだけ離れようと試みるが無駄だった。いつもの恭介からは想像すら出来ない咎める様な目で睨まれて、抵抗する気も失せた。
「…は、かな…逃げようとしないで…」
「ンッ……んっ…、逃げてねー…っ、でも強引すぎるっ」
「ハァ…そっちが煽ったくせに…」
俺がいつ煽ったんだよ!っていう文句は言わせてもらえない。
少しだけ唇が離れて、お互いの目を見る。いつもは優しい色をした恭介の瞳が、今は興奮で見る影もない。完全に捕食者のそれだった。
「かな、舌入れたい入れていい?かなの口の中舐めたい…いいよね…?ごめんむり入れる」
「だからっ…聞くなよ…!そういうこと…!」
欲情しすぎて完全に質問が自己完結してるくせにわざわざお伺いを立てるところが律儀というかなんというか。そりゃあ俺は今まで自分が受け身の性行為全般が全く無理だったんだから恭介が遠慮がちになるのはわかる。それにこんな状況でも俺のことを一番に考えてくれているのは単純に嬉しいし愛だなとも思う。思うけど….そんなに毎回行為の是非を問うのはどうかと思う。流れを切られるから…とかムードがないから…とかじゃなく、ただただ返事すんのが死ぬほど恥ずかしいからやめてほしい。
恭介は体勢をそのままに俺の顔に手を添えて再び口づけた。つまりは俺の身体を片腕で抱え上げてるってこと。壁に押し付けながらとはいえあまりの腕力に驚いた。
俺175㎝ある成人した男だぞ…?嘘だろ…?
動揺を隠せない俺を尻目に、すぐさま予告通り恭介の舌が口内に押し入ってきて考えていたこと全てがぶち飛ぶ。
やわらかい、あったかい、ぬるぬるする、きもちいい、そんなとこ舐めるな。頭の中で色んな単語が飛び交う。
あまりにも濃厚なキスを結構な時間かまされて、あからさまに下半身が熱くなるのを感じた。今まで想像でしかなかったキスの感触がダイレクトに脳内を駆け巡り、より下半身に血流を促す。
気持ちいいんだろうなとは思っていたけど、キスだけでこんなに興奮するなんて…俺全然知らなかった。
「…、っは…ちょ、待て…!」
「やだ…っ、かな…逃げないでってば…、」
「んっ、だから逃げてないって言ってんだろ…!いいからっ…!一旦下ろせっ…!んっ、ちょ、…!ンッ…ばか…!」
罵られようとバンバン背中を叩かれようと恭介からの攻撃は全く止まらない。ちゅ、ちゅ、といやらしい音だけがひたすらに玄関に響く。
これドアの外にも聞こえてんじゃねーの?いや…確実に聞こえてる。だって前に恭介がドアに睡眠薬の入った瓶投げつけた時、後から管理人に小言言われたもんな。今回はなんだ…?接吻の音がうるさいですとか言われんのか?マジでどうすんだよ…クソ気まずいだろ。
現実逃避でアホなことを考えながら息も絶え絶えになった頃、ようやく唇が離れたと思ったらターゲットが口から首筋に変わっただけだった。噛みつかれるんじゃないかと思うような勢いで頬から耳、そして首筋へと流れるように愛撫される。もちろんこんな経験初めてで、目が眩むほどの快感が押し寄せた。口からお手本のような甘ったるい喘ぎ声が漏れる。それを聞いた恭介が更に鼻息を荒くしているのが生々しく伝わってきた。
これが性行為において主導権を握られるということか…と頭の隅で考えていたら急に身体が地面に着地する。一旦呼吸を整えたくて、すかさず恭介から離れようとした瞬間もつれ込むように玄関のカーペットの上に押し倒された。痛くはなかったけれどなんせ勢いがすごい。俺はベトベトになった口元を袖で雑に拭いながら恭介を見上げる。
「おいっ…!お前っ…がっつきすぎ…!俺ファーストキスしたばっかだぞ!?もう少し手加減しろよ!」
「うんわかってるごめん」
「謝るならもうちょっと……あ?おい、なにお前…えっ、待て待て待て…!」
「かなも我慢できないって言ってたでしょ」
「え、いやそれはキスのことで…!ちょ…待って…!」
「待てない…ごめんほんとに」
「あっ…、ばか…!」
恭介は若干震える手で少々乱暴に俺のシャツのボタンを外していく。本当は引きちぎりたいくらい興奮してるくせに…強引なのか優しいのかどっちなんだよマジで。
ボタンを全て外し終わった恭介は、中に着ていた黒いタンクトップに手を入れる。腹筋をなぞってからゆっくりと胸に向かって手が這い回る。
「……っ、あ…」
「はぁ…すげぇ気持ちいい…かなの肌…」
「黙ってらんねーのかよお前…!てかどんだけ勃ってんだよソレ…苦しくねーの?」
「苦しいよ…?正直今すぐ出したいけど…でもゆっくりしたいから…」
「玄関で押し倒しといてどの口が言ってんだよ」
そう言ったところで恭介は苦しそうな顔で目を閉じ、髪をかきあげてため息をつく。なんか地雷踏んだか…?と勘繰るがどうやら違うらしい。
切なげな目で見つめられたかと思ったら、ドサッと音がする勢いで恭介の身体が俺の身体に重なる。
「あ~……やっぱそうだよなぁ…」
「おい重てーんだけど」
「興奮してこんなとこで押し倒してごめんかな…」
「……いいけど…ちんこ当たってんぞ」
「ごめんってば…あ、でもかなも硬くなって…」
「うるせーな…!こんなベロベロ舐め回されて勃ってなかったらおかしいだろ!」
「いやーんそんな褒めなくても~!ふふっ気持ちよかった?」
「褒めてねーよ変態っ」
俺の上でニコニコしている恭介はさっきまでとまるで別人だ。俺の首筋に顔埋めてた時なんて完全に狼に見えたぞ。こえーやつ。
恭介の両方のほっぺをギュッと掴むと、更にニコニコと目を細めて笑い返された。なんだかその笑顔が余裕そうに見えてムカついたので不意打ちでフレンチキスをしてみる。ちゅ、とさっきとは違うかわいいリップ音が鳴った。
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