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大人の本気② 蓮見圭介
『いいか蓮見!俺達の天使を穢した貴様の事は、あの店の紳士同盟にしっかりと報告しといたからなっ!』
しつこいなぁ…。
何その紳士同盟とやらは。暇なの?
『お前には今後、天使の現状報告を定期的にさせる事になったぞ』
「ああ、それじゃ来週の木曜に」
『それとっ、これ以上あの子に無体な真似はするなよ!』
「…分かってるよ」
無体なんてする訳がなかろうよ。
『じゃあ…、必ず来いよ。怖気付いて逃げるんじゃないぞ!』
「…ああ。 はい、じゃあまた」
やれやれ…。やっと終わ……
『それからっ!』
「…え? 」
嘘だろう? まだ何かあるのか…。勘弁してくれないかな。
『……確認だが、あの子を一夜の遊びの玩具にした訳じゃないんだよなぁ』
「いや、だから違うよ」
キミそれ、この前も同じ事言ってたよ?
この男、大丈夫かな。若年性なんちゃらとかじゃあるまいな。
『なら……、まぁ、うん。……よ、くは無いが、今日のところはこの辺で勘弁してやる』
「うん。 …ああ、そう、」
どうもご苦労さま。もう切っていいかな。
さっきからキミの言う天使くんを退屈させちゃってるんだけど。
「それじゃ、もう切るよ。兎に角、木曜まで待ち給えよ。……はいはい。では、ね」
…………はぁ、疲れた。
嫌だねぇ…。男の嫉妬は醜いねぇ。
キミらが手ぐすね引いて聞きたい話題の提供は、惜しみ無くしてあげると言ってるじゃない。いい加減それで手打ちにしてくれないと、子羊くんと遊ぶ暇もありゃしない。
さて…、と。
さっきから部屋をキョロキョロ物珍しそうに見渡してる子羊くんに、俺の擦り減った気力を回復して戴きますか。
広々とした応接用の革張りのソファにちょこんと腰掛けた瑛士。ふふふ。借りてきた猫のようだね。
はいはい小田くん。キミちょっと席を外してくれる? うん、そうそう。ちょっと休憩しようよ。コーヒーでも飲んでおいで。はい、いってらっしゃい。
優秀な秘書はちょいちょいと手を振ると、音もなく静かに部屋から退出してくれる。
「やぁ待たせたね。ごめんねぇ、瑛士くん。退屈だったろう」
「いいっ、いいえっ!」
コロンと転がるように頽れ掛かる薄い肩を抱き寄せる。…ふむ。この手触り。量販店の吊しの安物スーツだな。もっといい物を着せたいな。テーラーのオーダーメイドとかどうだろう。瑛士はそこそこ身長もあるし細身で結構スタイルもいいから何着せても似合いそうだよね。でも最初からスーツはハードルが高いかな? 怖がらせちゃ元も子もないし…。あ、そうだ。
「やっ! ど、どこ触ってんだよっ!止めろって!」
「ああ…。やっぱり瑛士のお尻はサイコーだね。程良い弾力と僕の掌にピッタリサイズだ」
毛を逆立てる仔猫ちゃんみたいだな。もー。そんなにジャレつかないの。
仕事? そんなの後でいいよ。今は休憩時間だからね。
無駄な抵抗を軽く往なして小振りでモチモチとした尻をマッサージしてあげてると、聞き捨てならない事を言った。
「え……。熱…? 出たの?」
「そーだよ!2日も寝込んで酷い目にあったんだぞ!」
そりゃ…そうか。何しろ初めてだっていうのに、朝までたっぷりおイタしちゃった自覚はあるな。もー、何で呼ばないの。……まぁ、そりゃ呼ばないか。ははは。ごめんねぇ。お詫びに今夜は美味しいご飯でもご馳走してあげようね。確か瑛士は肉が好きだと言ってたよね。酔っ払ってたから覚えてないかな。
「熱のお詫びに、お肉、ご馳走してあげようか?」
そうそう。好きでしょ、お肉。オジサンお金なら沢山あるよ~。好きなだけ食べていいからねぇ。
「最高級ランクの松阪牛のすき焼き。…食べたくない?」
「に、…肉? …松坂牛?」
舌の上で蕩けちゃうくらいの美味しいお肉だよ~。食べたいでしょう?
「ーーーーー……行く」
よし! 決まりだ!
「う~…ん。どうしようかねぇ」
今夜は本当にただ食事を愉しんで貰うだけのつもりだったんだけどなぁ…。
贔屓の料亭に予約を入れ退社後すぐに腹ペコの子羊を攫い、秘書の小田を伴って奥座敷の席に着いた。
流石にSランクの松阪牛は瑛士の舌を驚かせたみたいだね。
「な…、ナニコレ、 ウマイ… トケル…」
覚えたての日本語を操る外国人みたいなカタコトで、瞳をキラキラ輝かせる瑛士には本当に癒やされた。
お陰で普段ニコリとも笑わない秘書まで相好を崩すとは…。いやはや流石は俺の子羊くんだ。あの友人に天使と呼ばせるだけのことはある。
突き出しの小鉢にもにこにこと箸を付け、おっかなびっくり口を付けた獺祭もお気に召したらしい。
いやぁ、良かった良かった。…とこちらも上機嫌で愉しく会食を進められた。
「社長……。あの、園村くんは大丈夫でしょうか」
「いや、大丈夫…、ではないなぁ」
やれやれ。この子本当に酒に弱いんだね。
持たせたお猪口はとりわけ小さ目の物だったし、お銚子も二本程しか空けちゃいなかった。食事を摂りながらだしと高を括ったのが不味かったかな。
こくりこくりと船を漕ぎ始めたと思ったら、コロンと畳に転がって何やらむにゃむにゃと寝言を言い出した。
「ふみゃぁ……、んも~、くえにゃあぃぃ……」
これには流石の俺も苦笑いだ。
「女将に言って、奥の部屋に布団を敷いて貰うかね」
なに? そんな胡乱な眼差しを向けるもんじゃないよ。俺はキミの上司だぞ?
もう少し信用したらどうかな。
半眼の秘書にジットリと睨まれながら用意させた布団に酔っ払いを転がした。
「さて…と。小田くんも今夜はお疲れさん。もう帰っていいよ」
「………………はい。では、また明日……。お疲れ様でした」
最後まで被疑者を見るような疑惑の視線を向けてくる秘書。キミは万引きGメンのオバちゃんかな? テレビの特集で見たことあるあの鋭い眼差しのご婦人のようだぞ。
「はい。お疲れさん」
ひらひらと手を振り小田を追い帰し、料亭の奥座敷へと戻る。
この料亭、昔は連れ込み旅館だったそうで奥の数部屋はその名残か、簡易のシャワーブースが設置されたちょっといかがわしい雰囲気の寝所になってる。
紅色の行灯が照らすその部屋へ入ると、敷いた布団の上に大の字になった瑛士がすぴーすぴーと鼻を鳴らして寝転けていた。
「うん……。可愛いもんだねぇ」
ふふふ。本当にもう。どうしてこうも警戒心が無いのかなぁ。仮にも俺はお前をご馳走だと思ってるオオカミだよ?
「また美味しく食べちゃうぞー」
「んん~……」
耳にふぅ~と息を吹き掛けると可愛らしく口を窄めてむずがった。
……うん。面白いな。
何はともあれスーツくらいは吊るしておいてあげようか。このままじゃ寝るにも苦しかろうし。
「まったく…。俺にこんな世話を掛けるのはお前くらいだぞ、瑛士」
スーツを脱がせ、少し迷ってワイシャツも剥いだ。相変わらず肌着は着てないんだね。今日も埋没気味の乳首がこんにちは…と遠慮がちに顔を出す。
「あはは。今日は猫のプリントかい?」
前回はチェック柄だったが今日は可愛らしい猫のプリントがされたトランクス。きっと選り取り3枚で幾らとかの量販店の物だろう。
なんだろうね…。このほっこりした気分。本当に瑛士といると心が和んでしまうな。
形のいいヘソの周りを人差し指でクルクルと撫ぞる。擽ったいのか薄い腹がヘコヘコと動き出す。楽しいね。そのまま指をツツツ…と上まで滑らせ埋没乳首を乳輪ごと摘んでみた。にゅっと顔を出した小さな突起が行灯の紅い色に染まり、随分といやらしく見える。摘んだ指を離すとヘコッとまた埋没し顔を隠す。
また摘む …にゅ
離す ヘコ…
摘む …にゅ
離す ヘコ…
「んふぅ……ん、みゃぁ……だぁ…」
おっと…。つい面白くて遊んじゃった。ごめんね。
「さて、と。俺も汗を流しとくか」
パンツ一丁の瑛士に上掛けを被せシャワーを浴びに向かった。今夜は大人しく寝かせてあげよう。何だかわからないが紳士同盟などという連中も面倒だし、俺もこれ以上変な感情を育てたくもない。今更手後れな気がしないでもないが、まだ引き返せると思うんだ。
だいたい俺のような遊び人に瑛士は荷が重い。
今はまだ嵐の前。オオカミにとって子羊は餌だ。決して心を傾ける相手にしちゃならない。嵐の夜は大人しく巣穴で寝るに限る。
……………なんて。
「これは……。メインディッシュかデザートか……」
さっぱりと汗を流して戻ってみれば。
うー…ん。この子羊くんめ。どうしてくれようか。
きちんと被せた上掛けは跳ね除けられ、猫柄のトランクスの緩んだゴムが悪いのか、子羊はその中に両手を突っ込みウインナーを揉んでいた。
フンフンと鼻息荒く時折ピクンと腰を振る。………酒に酔うとエッチな気分になる子は確かにいるが。これ。多分無意識だよね。
「ああ…。もう、知るもんか。……据え膳食わぬは男の恥だ」
これはもう戴きます。
両手を合わせてお辞儀をする。
翌朝顔を合わせる秘書の青筋が頭に浮かんだが見てみぬ振りをする。
仕方なかろう。……誘ったのは子羊の方なんだから。
「瑛士……。ほら、お尻出してごらん」
後で文句は言いっこ無しだ。
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