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第4話
妻が亡くなったのは結婚して3年後、翔悟が10歳の時だった。
以来、俺は父親として翔悟の為に仕事と子育てとに全力を注いできた。
会社も俺の事を考えてくれて夕方までのシフトを組んでくれたり学校行事の日を休みにしてくれた。
お金に困らないように、でも翔悟に寂しい思いをさせないように。
そうやって無我夢中になってやってきて、翔悟とはいい親子関係を築いてきた……はずだった。
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それは、ある日突然起こった。
仕事から帰ると、大学生になっていた翔悟の部屋から声が聞こえた。
翔悟の大学進学を機に、俺は今までよりは長く働いて帰りが夜遅くになる事が増え、翔悟もコンビニでアルバイトを始めて今までどおりの生活からすれ違う日が増え始めた頃だった。
「あぁ……ッ、とうさん……ッ……!!!」
大声で俺を呼ぶその声は、いつもの翔悟のものとは全然違った。
少し開いたそのドアからは、翔悟がテレビ画面で何かの映像を流しながら自慰行為に耽っているのが見えた。
「…………」
俺は気づかれないようにその場を離れ、浴室に駆け込んだ。
どうして。
どうして俺の事を?
少し前に彼女が出来たとか、遊園地デートしてきたとかはにかみながら嬉しそうに話してくれていたのに。
困惑していると、背後に気配を感じた。
「!?」
「おかえり、義父さん」
振り返ると、裸の翔悟が立っていた。
母親に似た、可愛いらしい顔立ち。
それは子供の頃とほとんど変わらないまま、俺より背は低いけど身体はちゃんとした男になっていったのを見てはいつか結婚して父親になるのかな、とか考えたりもした。
「見たんでしょ?オレがひとりでシテるトコ。どう?興奮した?それとも引いた?」
今まで見た事のない、冷たい目で俺を見る翔悟。
「わ、悪かった。ドアが開いていて、声が聞こえたからつい……」
「声……ね。オレの声以外は聞こえなかったんだ。じゃあ今からすっごくいいモノ見せてあげるね……」
翔悟についてくるように言われて、俺は逆らえなかった。
そうして歩いている間は嫌な予感しかしなかった。
まさか、まさか俺の過去を翔悟は……。
そんな予感は、悲しい事に的中した。
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