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やっぱり僕は…①

煌太と出会ったのは、高校の入学式。式の後、出席番号順に座った教室。左斜め前に座っていた煌太の後ろ姿は、とても印象的だった。 真っ直ぐに伸ばされた広い背中。短く調えられたサラサラの黒髪。後ろ姿だけだけど、僕がこうなりたかったという理想の姿がそこにあった。 三十才くらい?の担任の教師が挨拶をして、お決まりの自己紹介が始まった。僕は、こういうのが苦手だ。人前で話すのも、さりげなく自分をアピールするのも。一番は、自分の名前が好きじゃない。 前の席の鈴木 賢二(すずき けんじ)くんまで自己紹介が終わった。軽く笑いをとる人もいたりして、妙なプレッシャーを感じていた。 両方の拳をキュッと握り、意を決して席を立つ。 「すっ、鈴木 淳之介(すずき じゅんのすけ)ですっ!」 いきなり噛んだし、最後に変な力が入った。心の中で項垂れる。なんとか、次の言葉を押し出そうとした時だった。 「鈴木 淳之介…」担任が俺を見ながら言った。どうして名前が呼ばれたのか、戸惑いながら「はい…」と小さく返事をした。 「鈴木が二人だから、名前で呼ぶか。賢二と淳之介…長いな。"淳"でいいか」 独り言のように言った後、担任は僕と鈴木賢二くんを交互に見て「それでいいか?」と訊いてきた。 「はい」と僕達が返事をすると、「よし」と何度か頷いた。 なんとなくもう終わった気がして、僕がストンと椅子に座ると、後ろの席の人が立った。 複雑な気分だった。苦手な自己紹介は、名前を名乗っただけだっだ。古風な感じが好きになれない『淳之介』という名前も 、クラスメイトが反応する前に担任によって『淳』と短縮された。 ……結果的に、よかった、のか?そう思えば、いいのか? ――その事は、翌朝はっきりした。 僕が住んでいる町は、高校から遠い。知っている人が少ない方がよくて、あえてそこを選んだ。 駅から一人で、列車に乗る。座席に座り、流れる景色をボーッと眺めていた。僕が乗った駅から、二つ目の駅に止まった。 「あっ、鈴木くん」という思わぬ呼びかけに、視線を動かした。「滝沢くん」と、無意識に返していた。僅かに目を見開いた後「ここ、いい?」と前の席を指差した滝沢くんに、僕は頷いた。滝沢くんと一緒に乗ってきた友達は、隣のボックス席に座った。 ここで会った事も、名前も覚えていた事にも、お互い驚いてすぐに会話が始まった。一区切りついた所で、「あのさ」と滝沢くんが僕を真っ直ぐに見た。 「鈴木くんの事、俺も"淳"て呼んでいいかな?」 ポカンと滝沢くんの事を見つめてしまった。凛々しい眉、切れ長の瞳、通った鼻筋、適度な厚みの唇。前から見た彼も、僕の理想そのものだ。

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