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第3話
「あれ、また来たんだ。」
大きなベッドとシャワールームだけを備えた簡素な部屋に入ってきたその姿を見て、胸が高鳴る。景親はベッドに浅く腰かけていた背筋を伸ばしてぺこりとお辞儀をした。
「こんにちは…。」
告白の日から一週間。我慢できずに桃司に会いに来てしまった。出禁になっていたらどうしようかと思ったが、怖い大人に囲まれることはなくてホット胸を撫で下ろした。
「おかえりなさい!またお兄さんが来てくれるの、モモ楽しみに待ってたんだよ?」
桃色に染められた毛先を揺らしながら、可愛らしく首をかしげた桃司はにこりと笑う。初めて会った日と同じ笑顔だ。
「この前はお兄さんのこと気持ち良くできなかったから…今日はもっともっと頑張るね?」
細い指が緊張で冷たくなった自分の指を絡めとっていく。
上目遣いで覗き込まれれば、心臓は一気に高鳴って顔に熱が集まる。
きっとこの可愛らしい笑顔は所謂営業用で、客じゃなかったなら先日のように相手にすらしてもらえないんだろう。いくら童貞でもそのくらいは分かる。
だけどやっぱり、彼が好きだ。諦めきれない。
淡々と続いていた味気ない日々を一気に薔薇色に染め上げてしまった君が好き。
どうせ散々みっともないところを見せたんだ。いくら貢いだって、利用されたって、ただの客にしかなれなくてもいい。彼のそばにいたい。
陶器のように滑らかな肌をぽうっと眺めてそんなことを考えていると、繋いでいない方の手がこちらへ伸びてきた。
「お兄さんの服、モモが脱がせてあげるね?」
「あ、ちょ…っ、桃司くん…っ」
片手で器用にシャツのボタンを外していく桃司。会話らしい会話もなく始まってしまいそうな行為を慌てて制止する。
桃司はそんな景親に、一瞬だけ真顔になって言った。
「モモ、だよ?お兄さん。」
笑顔を見せてはいるが、その瞳の奥には冷え冷えとした色が浮かんでいる。
本名を呼ぶのは彼にとってタブーらしい。
すぐにごめん、と謝ると桃司は気にしないでと笑ってくれたが、その手が止まることはなかった。
あっという間に下着一枚にされてしまった景親。
「えーっと今日は、本番まであるコースで合ってるよね?時間は90分。まずは一緒にシャワー浴びよっか。」
気付けばあ、とかう、とか言葉にならない声を出している間に、スマートにシャワールームへとエスコートされていた。
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