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第9話

それから意外にも桃司は寂しがり屋だと知った。頻繁にメッセージを送ってきては、朝食べたもの、行ったところ、買ったものを報告してくれることもあれば、暇だとかお腹空いたとかただの呟きと言っていいほど取り留めのないことを送ってくれることもある。アラサーの景親にとってスタンプや絵文字で溢れたそれは今までの日常になかったもので、どう返事したものかと頭を抱えた。気のきかない返事しか送れない自分に自己嫌悪になったりもしたが、だからといって可愛らしいスタンプをこんなおじさんが使っていいはずもない。けれども、やっとメッセージアプリの使い方に慣れてきた頃には、桃司とやり取りすることが毎日の幸せになっていた。そして何より、たまの休みに桃司と会って過ごせているのが夢みたいだ。毎日毎日好きが増していく。 今日も朝からおはようの挨拶と共に送られてきた謎の生き物のスタンプ。熊のようなキャラに羽が生えたなんともいえないゆるさのあるその顔を見て、景親の頬も緩む。 このたった数行のテキストだけで猛暑の中の外回りだって軽くこなせるだろう。控えめにおはようとだけ返事をしてスマホから顔を上げると、目の前でニヤニヤと笑う瞳と視線が合わさった。 「先輩何ニヤニヤしてるんですか~。」 「え、あ、ごめんね!」 スマホを覗き込もうとする後輩に苦笑しながら謝る。 今日は一人じゃないことをすっかり忘れていた。 「彼女さんですか~?」 目蓋がキラキラと輝いていて、信じられないくらい睫毛が長い彼女は、数か月前に入社してきた後輩だ。きっちりとスーツを着てはいるが、髪の色やメイクでギャルを隠しきれていない。 うちの会社にはいないタイプだったばっかりに、教育なんてしたことのない景親にその役が回ってきた。 確かに見た目は派手かもしれないけど、真面目でいい子なんだけどな。 「いやそんな、僕に彼女なんかいるわけないでしょう?」 「ですよね~!先輩優しくて色々丁度いいのに勿体無い!私はちょっと付き合えないけど!」 訂正。かなり失礼な奴だ。 「…無駄話もほどほどに。ほら、行くよ。」 「はーい。」 タイミングよく青色に変わった信号を合図に、端末を鞄に押し込んで再び二人並んで歩き出す。 今日は仕事終わりに桃司とお酒を飲みに行く約束をしている。 桃司とお酒を飲むのは初めてだ。 絶対に残業するわけにはいかないから何があってもこのまま直帰しようと心に固く誓った。

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