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第11話
「ちーちゃんはっ、身長高いし、優しいし、眼鏡外したらちょっとだけカッコいいし、童貞だけどちんちん大きいし…っ!」
ぽたぽたとテーブルに涙を落としながらそう言葉を続ける桃司。
それは多分景親を褒めているのだろうが、内容があんまりだ。いくら居酒屋とはいえ公衆の面前でする話ではない。
「ちょちょちょ、ストップ!ストップ!」
「なぁんで~っ」
とうとうしゃくりあげながら本格的に泣き始めてしまった。スーツのポケットからハンカチを取り出して立ち上がる。
「飲みすぎだって。送ってくからもう、」
桃司側の席へ回り込んでハンカチを手渡し、もう帰ろうと促そうとしたが桃司は駄々をこねるようにそれを拒んだ。
「やだ!ホテル行かなきゃ帰らない!ちーちゃんの馬鹿!!」
叫び声と共に顔面に投げ付けられたハンカチ。こんなに質の悪い酔っ払いに絡まれたのは初めてだと、景親はこめかみを押さえた。
今日のモモくんは、困った小悪魔だ…!
そして梃子でも動かない桃司にほとほと困り果てた景親は、軽い体を担ぐようにしてとうとうネオンの看板が眩しいホテルへと来た。いかにもという部屋の中から一番小綺麗に見える部屋を選び、ドキドキしながらドアを開ける。
部屋の中央にはその存在を主張する大きなベッド。見たこともないゴールドのシーツに慄きながらも、ここにくるまで静かに泣いていた桃司を座らせる。
「モモくん?平気そう?水とか飲める?」
自分と比べて随分小さなスニーカーを脱がせて聞くと、桃司は泣き濡れた目でこちらを見つめていた。
「ちーちゃん」
そう呼ばれて返事をすれば、目の前に延びてきた桃司の両腕。
「えっちしよ…?」
細い腕が首もとに絡み付くのがやけにスローモーションに見える。アルコールで火照った息が耳を擽って、思わず肩が跳ねた。
「あんな女より、僕の方がちーちゃんのこと好きだもん。僕の方が気持ちよくできる。」
その声と共に体が傾いて視界が一気に反転する。
気が付けば、桃司の後ろに何故か鏡張りの天井とオレンジ色の照明が見えていた。
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