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夏暁4
「ごめんね」
琉太が何度それを口にしたのかわからない。
ただ夢中で身体を預け、畳の目に爪を立てながら琉太の体温や質感、初めて身体の中へと受け入れる他人の熱と質量と───想いが成就したという感覚にと、果たしてこれは成就なのかという疑問と、起こる全てが高熱にうなされる時のようにふわふわとしていて、実感すら湧かなかった。
ただ1つわかるのは、自分はどんな形でも良いから、琉太とこうして幾度も口付けを交わし、肌を重ねたいと思っていたということだけだった。
「…ごめんね」
ぽつ、と呟く声に胸が苦しくなる。
気が付いた時には小さな窓の外はすっかり暗くなっていて、その時初めて時間の経過を知った。
琉太は何に対して誤っているのだろう。
制服のシャツのボタンを止めながら考える。
他人の身体を貪る事への───自分がされたことと同じことを人に要求する事への罪悪感なのか。
目を伏せる琉太の横顔が辛い。
自分と交わることを琉太が罪だと考えるような向きは嫌だった。
軽く首を横に振る。
「琉太、…触る、から、」
恐る恐る口にする。
琉太ははっとしたように目を上げるのみで、その場から動こうとはしない。
畳に置かれたままの指に、世界で最も壊れやすいものに触れるように指を添わせた。握り込むことはせず、ただ指に指を重ねた。
「謝んなよ」
「……」
「…琉太が俺にしたことと、琉太が、…アイツにされたこととは、違うと思う」
細い肩が揺れた。あの肩はさっきまで自分の上にあった。
頼りない背と、頼りない肩だ。
自分と同じ、未発達の身体だ。
だが、琉太はこの身体に全てを背負って生きている。大袈裟ではなく、そんなことを思った。
「だから、謝んなくて良いんだ」
「……うん。司くん」
目を合わせることが出来ない。
それでも、視界の端に琉太が泣き笑いのような顔を浮かべるのがわかった。
掠れた声に釣られて込み上げる熱を飲み込む。
司の指を握り締めた琉太は肩を震わせ、ほんの少しだけ泣いていた。
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