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一片1
結局、地元の小さな夏祭りに行くことはなかった。
司と琉太は夏休みいっぱいを受験勉強に費やし、その放課後に時々───ほんの時々、誰もいない琉太の家で身体を重ね、互いに口に出すことなく、幼い恋心を確かめ合った。
短い夏が終わると、足早にやってくる秋の気配と共に学校内で開催される文化祭の季節がやってくる。
今までろくに学校に顔を出していなかった司が教室にやってくるようになると、クラスメイトの間には「彼ははみ出してはいたものの、悪いやつではないらしい」という空気が醸成された。
司と琉太が所属するクラスは文化祭で装飾物出すことに決まり、始めは級友たちは大いに喜んだ。飲食店等、常駐の人員を付けなければならないそれとは違い、大看板や校内の掲示物等を作れば良い係が割り当てられたクラスは当日丸々時間が自由になるのだ。
司はそれすらも知らなかった。初めて知ることに内心で相槌を打ちつつ、大人しく学級会に参加している。
琉太はそんな司と学級会の様子を嬉しげに眺め、司の役割が大看板の製作班に決まると当然のように同じ係に手を挙げ、希望が通された。
当日はずっと時間があるよ。
ベニヤ板に下書きが大書されたものにペンキで塗りながら、琉太はひそひそ話をするように、当たり前のことを司にそっと囁いた。
二人の関係は、無論誰にも言ってはいなかった。
誰かに───互いにすらも、口にすれば壊れてしまうような気がして怖かった。
ただ大切に、宝物の形ですらない、あたかも幼い頃に海辺で拾った丸みを帯びて輝くガラス片のような想いを胸にしまい込んだまま、時々小さなキスだけを交わした。
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