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2 side.s

「昨日早く帰れたからさ、久しぶりに友達と飲みに行ったんだよ。そしたら……うっ…おえっ」 「だ…大丈夫だ!お前はもう話すな。飯が不味くなんぞ」 同僚に背中を摩られ、まだ食べかけのクリームパンを片手に突っ伏している。 その様子を、来碧さんの手作り弁当を味わいながら眺めた。 「何があったんだ…って、聞かない方がいいか?」 「いや、代わりに俺が話すよ」 俺をここに連れ込んだ人物は、燃え尽きた灰と化した彼の手からクリームパンを抜き取り眉を顰める。 「オカマバーのキャッチがしつこくて遊び半分でついて行ったらしいんだ。そしたらそこの従業員にやべえのが居て、危うく掘られそうになったんだとよ…」 「へぇ……そりゃまた災難だったな」 想像するだけで悍ましいその光景に、思わず俺の手も止まり、室内はしんと静まり返った。 来碧さんのようなΩ性であれば、身体の作りからしてそうであっても何もおかしくはない。 だが、俺達は別だ。 子種を植え付ける事に特化した身体であるが故に、自分が下になる事に対する抵抗は恐らく他の性別の人間よりも強い。 こればかりは、どんなに来碧さんに頼まれても首を縦に振ることはできない謎の自信があった。 「しかもよぉ…その人、αなんだぜ……誰が好んでデカマラの髭ヤローに抱かれたいと思うんだよ…っ、うぅ……」 「わかったからお前もう喋んな。顔真っ青だって」 平日の真昼間からとんでもない話を聞かされてしまったものだ。 これなら人付き合いなど考える暇もない以前の俺のまま、スケジュールでも組みながら一人飯をしていた方が幾分かマシなような気もするが…。 「まぁその…なんだ、男と番った俺が言える事は……相手の気持ち良い所とか大体把握してるしされてる分…その、盛り上がる、ぞ…?」 「おまっ、そりゃαとΩだからだろうが!!!! …つーか澄晴も下ネタ言う事あるんだな」 「え?え…ぁ……っ」 しまった。つい口が滑って余計な事を…! もしこの会話を来碧さんに聞かれていたならば、真っ赤な顔して本気の拳骨を脳天に落とされる所だっただろう。 日常会話とはいえ、言っていいことと悪いことの分別はもっとつけるべきだよな…これまであまりにも人と話してこなかったせいで、線引きが曖昧だ。 今のは忘れてくれっ。 そう言おうと口を開いたその時、クリームパンを再び口に入れる彼と、その隣で背中を撫でていた彼、それから他の数人も、皆口元が緩んでいる事に気がついた。 「っはは!今まで全然話さなかったから知らなかった。澄晴って普通に面白い奴だな〜」 「思った!なあ、今度ポリの新妻見せてくれよ」 「澄晴の番っつったらー…やっぱ頼れる綺麗系?それとも案外澄晴がリードしてたりすんの?」 「え……っと、どうだろうな…。凄く強くて、格好良い人だよ。礼儀正しいし…でも目を離すとすぐ煙草吸ってるから…たまに、心配…かな」 今まで、ずっとずっと普通の人生を送りたくて必死にもがいていた。 俺だけを優先する世界、俺の性別しか見てくれない世界。 俺だけが見下される世界、俺を遊び道具にされる世界。 そんな道を歩んできた自分にとって、一番憧れていたもの。 当たり前のようで、そうではない。こうして来碧さんの話を他の誰かに…それも会社の同僚にできる日が来るだなんて思っても見なかった。 「機会があれば…紹介、する」 「よっしゃ!その言葉で残りのクリームパンいけるわ!」 「はは、大袈裟だな…」 最近は、明日が来ることが怖く無くなった。

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