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7 side.s
「なぁ…この人が澄晴の番?めちゃくちゃ美人じゃん…。本当にΩかよ?」
「Ωなのにこんな顔整ってる人居るんだな」
「Ωと思えねえくらい身長も高えし良い車乗ってるし…」
「はは。ありがとうございます。
お世辞でも嬉しいですよ」
みんなが、笑っている。
なんでもない光景だ。
俺が大切な恋人を紹介し、恋人もまた彼らと挨拶を交わしている。
なのに、どうしてだろう…俺だけが全然楽しくない。
多少の嫉妬も混じってはいるのだろうが、そうではなくて、もっと別の所。
この世界の、俺が憎んできた一番嫌いな所。
「いや〜全然!お世辞なんかじゃないですって!
本当にΩだなんて言われなきゃ絶対気付かな──」
「なあ。そのさ…Ωなのに、とか辞めろよ」
「…え?」
盛り上がっている話を遮った事よりも
驚く皆の視線を浴びた事よりも、雰囲気を壊したことよりも
辛くて、許し難いものがあった。
「来碧さんは、俺の大事な人だから。
次そういう性差別みたいな発言したら……俺、怒るよ」
一番苦しかったのは、来碧さんが笑っていた事だ。
どうしてムカつかないんだろう。
平気なフリして隠していたのなら、気を遣わせてしまった俺の責任だ。でも、そうでないのなら…来碧さんは自己肯定感が低すぎる。
もっと抗っていいんだよ。
あなたは他人に蔑まれるような人じゃない。
あなたの努力を何も知らないこんな奴らに、見下されて良い訳がない。
「綾木さん、気にしすぎ。
そんな事でいちいち怒るんじゃねえよ」
「だって…っ!」
俺の肩に手を置いた来碧さんは、片方の眉を下げて呆れたように笑った。
俺は、笑顔を返す事など出来なかった。
「すみません。ではそろそろ私達は失礼しますね。今後とも綾木をよろしくお願いします」
「あ…はい、こちらこそ…」
俺のせいで悪くした空気を、最悪の状況から脱却させてくれた来碧さんの顔も見れないまま
押し込まれるように助手席へ導かれ、会社を出たのだった。
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