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9 side.s

──自宅の駐車場に辿り着くと、何故か来碧さんはキョロキョロと辺りを見た。 不自然なその動きに疑問を覚えたものの、俺が口を開くより先に世間話なんかを振られてしまえば、問うことなど出来なくて。 彼がどこまで計算しているのかなんて俺にはわからない。 もしかしたら、珍しい鳥の鳴き声でも聞こえただけかもしれないし、もしかしたら、近所で事件が発生したのかもしれない。 後者なら特に、一般市民の俺が聞いて良いラインなのかも微妙だ。 心なしか強張ったように見える背中も、先程までαに囲まれていたからだと言われれば納得出来てしまう。 何にせよ、家に入ればいつも通りの柔らかな雰囲気に戻っていたから、特に気にすることは無いだろう。 彼の全てを知りたいとは思わない。 俺も、彼も大人なんだ。 いくら番といえども、言えない事はあるだろうし。 「…綾木さん、あのさ」 「うん?」 「今日も…泊っていってもいいか?」 「勿論俺はいいけど…明日も仕事、だよね?来碧さん…」 「あー…うん。まあ…そうなんだけど」 何かあった? そう、聞いても良いのだろうか。 どこか深刻そうな顔をしながら珍しく甘えてくれる彼に、俺が出来る事って、なんだろう。 「よかったら、明日の朝は俺に送らせてもらえない? 一応車も免許も持ってるし、いつも俺が乗せてもらってるから。 たまには俺が来碧さん乗せるよ」 「へ?…ほ、本当か?」 「うん!何とか仕事早めに終わらせるからさ。帰りも一緒に…どうかな」 来碧さんの事だから、「綾木さんの運転じゃ怖い」とか、「1キロたりともスピード違反しない自信あるんですか?」とかなんとか言って、俺に気を遣って断ってくると思ったのに。 その安心しきった顔が、また何か一人で抱え込んでいたのだと証明しているように思えて、きゅうっと胸の奥が締め付けられる。 俺には言いたくないことだろうか。 一人で解決出来るのだろうか。 俺の提案は、あなたを少しでも救ってあげられただろうか。 いつの間にか人との距離を縮められなくなっていた俺には、番同士という関係性による許容範囲が一体どこまでなのかがわからない。 「もしかしてストーカーでも付いてる?」 「サツにストーカーするドアホが居るわけないだろ」 「あ、確かに」 少しでも手がかりを掴めたらと探るように問いかけたそれは、いとも簡単に論破されてしまい、失敗に終わった。 ただ、理由はわからずとも、 彼を一人にしてはいけない気がする。 夜は互いに500mlのビール缶を2つあけ、ほろ酔い気分で気持ちよく眠りについた。

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