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10 side.r

妙に目が冴えて、なかなか眠れない。 家の外から聞こえる音一つ一つが、身体を震わせた。 綾木が隣に居るのに、だ。 風呂に入るとき、トイレに行くとき、何度も玄関まで鍵が閉まっていることを確認しに行った。 綾木を信用していない訳じゃない。 むしろ、俺の身の危険を何度も救ってくれた彼だからこそ、こうしてそばに居てもらっているんだ。 それなのに…なんて、情けないんだろう。俺は。 “番持ちのΩばかりが…” “君の家のすぐ近くで…” もし、犯行が1日前だったら もし、犯人と出会したのが自分なら そう思わずにはいられない。 あれから事件についてネットで調べてみたものの、やはり社会的地位の低いΩを標的にしたその犯行は、ローカルネットニュースにすらなってはいなかった。 これが例えば国を代表する政治家の番であったなら、夕方のニュース番組くらいでは題材にされるのかもしれないが…。 まあ、そういった類のαは父のように複数番を結んでいて、沢山の中の一人が被害にあったとてどうせ気にも留めないだろうな。 この世界は何処までも不平等だ。 俺も、綾木も、害者も犯人も、皆同じ人間なのに。 格差社会を嫌というほど痛感してきた中で、こうしてまた性別を理由に、報われない人がいる事を知る。 被害にあった人々は、大丈夫なのだろうか。 番のαは、綾木のように一人のΩを大切にしてくれる相手だっただろうか。 番関係を結んでおきながら、他のαに望まない形で犯された事で…捨てられてはいないだろうか。 事情をわかって抱き締めてやれるαは、この世界にどのくらいいるだろうか。 思い出すのは、孤独に苦しみ不安定な情緒と闘いながら、痩せ細っていく母の姿。 もう誰にもあんな思いはさせたくないと決めて警察になったのに、自身に危険が迫っている事を知った途端この有様だ。 誰かの為に何かをしてやれるほど、俺は強く無いのかもしれない。 結局綾木には話せなかった。 突然迎えに行った上に、そのまま泊まっていくだなんて…彼にとっては迷惑な話だっただろうに、何一つ文句も言わず受け入れてくれて。 そんな綾木だから、たとえ正直に事の経緯を説明しても勿論協力してくれるだろう。 でも、だから、綾木には言いたくない。 いや、迷惑をかけて、わがままを言って、綾木を困らせたく無いんだ。捨てられるのが怖い。 幼い頃から甘えなど許されなかった。他人に虐げられるのは当たり前で、その分実力で、結果で勝負してきた。 一人で生きていく事も、平気なふりをする事ももう癖になっていて、時折見せる綾木の心配そうな顔に気がついていなかったわけではない。 だが、それに簡単に縋ってしまうのは今までの自分の努力が全て水の泡になる気がしたんだ。 綾木は優しい。 けれど、初めて会った日は我慢に我慢を重ねており、そもそもストレスを溜め込む性格である事だって知っている。 俺に対する不満も、きっと綾木は笑顔で我慢する。 もしかしたら既に我慢させているかも……。 そんな俺が、更に身勝手なことを言い出したら…。 離れてほしくない。 嫌われたくない。 ……頼れない。

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