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背中を向けて横になる俺を包み込むように腕を回す綾木は、すよすよと寝息を立てて気持ちよさそうだ。 綾木も俺も性行為自体にはあまり執着がなく、こうしてただ同じベッドで寄り添って眠る夜も珍しくない。 この温度が好き。 吐息のかかる距離が好き。 香りが好き。 鼓動が好き。 未だに慣れない緊張感も、それ以上の安心感も 全部、好き。 貴方を失いたく無いんだ。 ごめんね。 明日からはまた格好良い俺で、頑張るから。 今だけ心の弱い俺を、どうか許して。 お願いだから、この感情は伝わらないで。 ようやく意識を手放したのは 深い、深い真夜中だった。 そして──。 「ちょ…本気で仕事行く気か?午前中だけでも休み出して病院に──」 「だ……大丈…夫。来碧さ、も…送らなきゃ……だし…」 「いやいや普通に怖いわ。せめて俺に送らせろ」 「うっ……申し訳、ありませ…」 朝から謎の腹痛に襲われた綾木はまっすぐ歩く事も不可能で、腹を押さえながら歯を磨いている。 まあ…俺が送ろうが綾木が送ろうが、要は一人で外を歩くなって意味だろうしな。 綾木と一緒に家を出れば、車を降りるのは署の敷地内だし問題は無いだろ。 それより本当にコイツ大丈夫なのか。 休んだら締めに間に合わない、なんてブツブツと呟く綾木を支え、なんとか車に押し込んだ。 本音を言うと病院に直行してやりたいのだが、本人曰く「数年前に処方された薬を飲んだからすぐに良くなる。逆に病院で怒られそうだから行きたくない」そうで、仕方なく綾木の職場に向かい車を走らせる。 途中、真冬に購入したまま放置していたアレの存在を思い出し、後部座席を覗いた。 …よし、まだあるな。 期限切れの薬でも飲まないよりはマシだったらしく、寝起きより少し顔色の回復した綾木を見送る間際。 「綾木さん。コレやるよ」 「え?なに…カイロ?」 「そう。貼るタイプな。 お腹、貼っとけよ。冷えるよりは温めたほうがいいだろ」 そう言って押し付けたカイロを、綾木はまるで宝物に触れるように瞳を輝かせ両手で受け取る。 思わず笑みが溢れ、このひと時だけは自分の置かれた立場を忘れる事が出来た。 「ありがとう!これで絶対に良くなるよ。 …来碧さん、今日も仕事頑張ってね」 「あぁ。お互い頑張ろう」 若干前傾姿勢になりつつも、しっかり足を前に進める綾木に励まされたのは本当だ。 俺も、いつまでも不安だの怖いだの言ってはいられないからな。 これ以上被害を出さないよう、一刻も早く犯人の手がかりを掴まなければ。 昨夜の弱い自分は、火をつけた煙草の煙に巻いて隠した。

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