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12 side.s
オフィスへ入ると、同僚数人がこちらへ駆けてきた。
皆して慌てて席を立つものだから、何か重大なミスでも発覚したのかと身体は強張る…が。
「澄晴!昨日は悪かった!」
「オレも本当にごめん…」
「え…?」
俺の予想は外れたようで、彼らは前屈みの俺よりずっと深く頭を下げる。
口々に謝罪をぶつけられ、理解の追いつかない頭はこの状況に混乱するばかりだ。
「…なんの事だ?」
「なんのって…昨日、澄晴の番に酷い事言ったろ…?あの人にもお前にも、悪かったなって反省してさ…」
「あぁ!あの時か…」
ようやく点同士が繋がり、線になったところで
続々と出社してくる社員達の視線が気になって仕方ない。
少し前まで俺に対し横柄な態度をとっていた彼らが、揃いも揃ってこれじゃあな。
ほら…やっぱり、来碧さんの言っていた通り。
わざとじゃ、なかった。
「俺も突然怒ったりして悪かった。悪気がなかった事は…ちゃんとわかってるから」
「…本当か?」
「本当だ…だからもういいから仕事するぞ!ちょっと腹が痛いから、代わりに電話取って貰うかもしれないけどいいか?」
「おう!任せろよ。大丈夫なのか?」
「薬も飲んだしカイロも貼ってあるから、時期に良くなる」
来碧さんを周りに認めてもらえた喜びと
彼らといつの間にかこんなにも対等に会話が出来ていた喜び。
αばかりの職場である以上、これでもまだ一般的な普通とはかけ離れているのかもしれないが
幼い頃から願っていた生活を手に入れられた。
そんな気がした。
──作業に追われ、話す時間も作れなかったせいで「もう大丈夫だ」と伝えられたのは昼休憩になってからだ。
それでも、彼らは今までの事もあるんだからと協力的で。
この環境に味を占められるほど俺の性格は歪んでいない。
腹痛もすっかり良くなったし、彼らに缶コーヒーと片手で摘める菓子でも買って行くか。明日にでも、仕事のお供にして貰えたら嬉しい。
最近出たあのチョコレート菓子、そんなに甘くはなさそうだから男でも食えない事はないだろう。
どうせなら、来碧さんの分も何か買って行こうかな。
特に珍しくもなくなった定時退社で外に出れば、夕日がビルの隙間にゆっくりと沈んでゆく橙色の風景が広がっていた。
…来碧さんも、そろそろ仕事が終わる頃かな。
元はと言えば、俺が送る予定でいたんだし
車通勤の来碧さんを電車でお迎え…なんて相変わらず格好悪い話だが、サプライズで向かったら少しは喜んでくれるだろうか。
彼の笑顔見たさに、つい自宅とは反対方向の電車に飛び乗ったのだった。
『仕事早めに終わったから、そっちに向かってる。
よかったら一緒に帰らない?』
警察署の最寄り駅で降車。すぐにメッセージを送信し、ついでにコンビニを探した。
普段なら直ぐに既読がつくのに、今日はなかなか反応が来ない。
不思議に思いつつも、来碧さんだって仕事中かもしれないのだからと自身に言い聞かせ、特に気にする事は無かった。
これが大きな誤算だったと気付くのは
それから直ぐの事だ。
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