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13 side.r
「昨日の件だが──」
「それでしたら、大丈夫です。暫くは私が迎えに行く形で同乗してくれるそうですから」
「そうか…それならいいが」
「ええ。心配には及びません」
“嘘つきクン”
そう呼ばれていた過去がチクリと胸を刺す。
俺を思っての案に対し、すらすらと口から出てくる嘘は警察官を簡単に騙せるほどに巧妙だった。
俺が送迎すると言ってしまえば彼らに確かめる事は出来ない。
プライベートの時間すら監視されるようならば、プライバシーの侵害だと訴えるまでの覚悟で臨んだ。
ここで足踏みしているわけには行かない。
俺は強い。
今までだって、一人で生きてこれただろう。
──出社後直ぐに交わされたこの会話以降、俺にその話題を持ちかける者はいなかった。
必要以上の心配をされるのは癪だし、自身がハタから見て弱い立場に置かれている事を認めたくない俺としては、その方が助かるから丁度良い。
何事も無く、怖いくらい平和な1日を終えて車に乗り込めば
仕事終わりにホッと息を吐く暇も無いまま今度は身の危険に震える。
今日も…例の犯人の捜査につながる有益な情報は全くだったな。
悔しい話だ。
今俺がこうして帰路に着いている間にも、愛したαと番ったΩが被害に遭っているかもしれない、なんて。
Ωにとって、番を結ぶというのは
それまでに遭遇してきたあらゆる身の危険から解放される、人生で一番と言っても過言ではない大きな一歩だ。
ようやく安心出来る環境になったにも関わらず、その生活すらも壊されかねないこの件は、一警察官としても、一Ωとしても到底許す事など出来ない重大な事件。
きっと塞ぎ込んでいるだろう。
きっと酷い拒絶反応の影響で心身にも異常をきたしているだろう。
外に出る度に、恐怖で足が竦むに違いない。
握るハンドルに、グッと力がこもる。
と、その時だった。
胸ポケットのスマホが細かい振動とともに軽快なメロディを流す。
この時間に綾木から電話が来る事はないし…となると。
「はい。もしもし」
ハンズフリーに切り替え、予想通りの署からの着信に応えた。
『あ、来碧くん悪いね。君のデスクに財布が置きっぱなしになっていたから連絡したんだが…もう出ていたかね?』
「え?…すみません。うっかりしていました。
直ぐに取りに戻りますので、引き出しの中にでも入れておいてもらえませんか」
『わかったよ。それじゃあ』
「はい。失礼します…」
はぁ…最悪だ。
よりによって財布を忘れてくるだなんて情けない…。
努めて冷静さを保っている筈だったが、どうにも頭の中はそうではいられなかったらしい。
仕方なく、引き返そうと近くのコンビニに車を停めた。
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