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14 side.r
……この辺り、何処もUターンは禁止だったよな。
この道もずっと中央分離帯が立っているから右折は無理だし…。
わざわざ脇道を通って回るより、直ぐそこの距離なら歩いたほうが早い。
…少しの間ここに車を置かせてもらうか。
怖くなかった訳ではない。
むしろ手のひらからじわりと滲む汗は、俺の心情を顕著に表している。
だが、いくら何でも目と鼻の先に警察署のあるこんな開けた道で犯行に及ぶアホは居ないだろうと安心している部分もあったのは事実。
別に財布が一日無くたって、どうという事はない。
ただ、例えば最近発売したチョコ菓子を綾木に買って行ってやろうか、とか
例えば今日も綾木を迎えに行って、帰りに酒でも一緒に買おうか、とか
そんな呑気な考えが、誤算だった。
時間を確認し、綾木の仕事の終業時間を過ぎている事に気がつくと慌てて車を降りる。
そう何日も定時上がりが続く事は無いとは思うが、最近は例の同僚と上手くやっているようだから。
迎えに行きたいなんて言う勇気はそうそう出せるものじゃない。それならせめて、
「ついでに乗って行かないか」くらいの事を言いたくて。
綾木がそれなりに雑用を強いられて残業してくれる事を願うばかりだ。
……コンビニの敷地から外れ、ほんの10歩程度歩いた時の事だった。
「ちょっとちょっとー、お兄さん待ってよ」
何者かが、俺の腕を背後から掴み上げた。
その男に見覚えはなく、人違いか何かかと疑ったが
彼の身体付きや力の強さから性別を悟った途端、背筋がピシャリと凍りつく。
──番持ちのΩばかりを狙う犯行。
──犯人の特徴は20代半ばから30代のα男性。
男の視線は、俺の頸に向けられていた。
「な…っ、お前まさ、ぁ……ッ!!?」
酷い頭痛。
思い出したくない、封じ込めていた過去の記憶がざわめき出す。
血液の煮えたぎる感覚と、掴まれた腕から全身に広がる悪寒とがごちゃ混ぜになって込み上げる吐き気。
見覚えがない?
嘘だ。
その男の記憶は確かにあった。
あの時より身長は伸びているし
顔にはいくつかピアスが開けられている。
髪の色も、長さも変わった。
服だって。
…それでも、俺にはわかってしまった。
この人物の正体が。
「…あ?兄ちゃんもしかして……あの時のガキか?」
「カヒュッ……」
声も出せない恐怖とはこの事だ。
男は恐らく、この周辺で多くのΩに癒えない傷を負わせた真犯人。
そして
「久しぶりだなぁ。会いたかったぜぇ…?
俺の運命のΩよォ」
あの時、俺を犯した3人のうちの1人。
俺と本能で惹かれ合う
運命のα。
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