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15 side.r
どう、して…。
こんな所で、会ってしまうなんて。
あれから約10年。
互いに面影なんか殆ど無いというのに。
ほんの一度きり顔を合わせた相手。
まともに会話をしたわけでもない。
ただ、思春期のαらしく
ただ、制御を覚えていないΩらしく
発情期というものを経験しただけに過ぎないのに。
「あれからさぁ、俺なーんか物足りなかったんだよ。
どこのΩと寝てもしっくり来ねえの。
番持ちもいくつか試したけどダメだったわァ」
耳にかかる知らない吐息と、挑発めいた低い声。
引き寄せられて、首元にざらついた舌が這う。
心臓が、熱くて今にも飛び出てきそうで
なのに頭部は急激に冷えきって、痺れて。
がくがくと大げさに揺れる膝が身体を支えていられるのは時間の問題だろう。
「お前も気付いてたろ?俺達が運命だって。
あの時だって俺が挿れてる時が一番反応良かったんじゃねえの?」
「し……らな、離せ…ッ」
「可哀想だなァ?運命でもない奴に番われちまうなんて。俺に噛まれときゃよかったのにさぁ!」
「ひッ…!」
この数日、俺の頭から一刻たりとも離れてくれなかった男が、俺と運命で繋がっているαだったなんて。
…それも、犯行動機のうちの一つは
奴の言い分を聞くに間違いなく俺だ。
俺の存在が、顔も知らない他の何人もに深い傷を負わせた。
「オラ、抱いてやるよ。番なんかよりずっとイイと思うぜ?
なんたって俺達は“運命の番”なんだからよォ?」
「…ッ、ぁ…う、ぉえっ……ひぐッ…!」
密着すればわかる、その男の匂いは
思考を混乱させるには十分で。
これまでに習ってきた護身術であったり、逆に相手を取り押さえる術であったり
身体に教え込んできた全ての事が、まったく行動に移せない。
身体が言う事を聞かない。
動けない。
それは男の力が強いからではなく
恐怖に足がすくんでいるからでもなく
俺の、俺じゃない部分がこの男を拒めていないからだ。
理性も吐き気も差し置いた、運命のαを求める本能が。
胃の中の物が逆流し、喉がパクパクと口を開け
それに合わせて肩が揺れた。
息苦しさに生理的な涙が視界を滲ませる。
……無理、もう…吐く……ッ。
誰か、誰でもいいから…助けてくれよ。
こんなのやだよ……俺で、いさせてよ。
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