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23 side.s

来碧さんは両手で顔を押さえ、長い溜息のあと 消え入りそうな声で 一度きり、呟いた。 「こんなに…誰かに大事にされた事、無いし… 抱き締められるのも…キスも……綾木さんが初めて…だから…」 「っ、な…?!」 耳を疑うその発言に、俺は返す言葉すら失う。 身体を重ねる度、確かにあまり慣れてはいないと思ったけれど… “初めて”とまでは聞いていない。 となると、俺は来碧さんにとって初めての恋人であり、同意あっての行為を許された唯一の相手であるという事だ。 無理矢理にされるものだという認識であったかもしれない性行為を、自ら欲し求めてくれた。 発情期でも、ないのに。 そんな……そんな嬉しい事があるだろうか。 いや、無いな。 即答出来る。 彼から手を伸ばしてくれた事は今まで何回あっただろう。 彼からキスをしてくれた事は今まで何回…。 その度に俺は、来碧さんの唯一で特別を貰っていただなんて…。 「来碧さんごめん。やっぱりベッド行こう」 「へ、うわっいきなり持ち上げんな!」 「確かに勘違いしてた。勘違いっていうか…知らなかった」 男一人を急に抱きかかえれば、散々ボコボコにされた身体には鈍い痛みが走る。 それがわかっているからか、来碧さんは抵抗せずされるがままになってくれるし 何なら自らしがみ付いてくれたりもして。 そんな、体温を混ぜる体勢一つでも 彼にとっては慣れないもの。 俺だから許してくれている。 そう思うと…もっと、もっと愛おしく感じてしまって、これ以上なんか無いと思っていたのに、また来碧さんを好きになった。 「酷くするなんて…無理だよ。そんな事聞いちゃったら」 「…へ、」 「溶けちゃうくらい優しくするから。 αやΩの脳を満たすだけじゃない、好きだからこういう事するんだって……俺に、教えさせて…欲しい…」 言葉なんていらないくらい、髪の毛一本ですら愛おしくて堪らないと伝わるくらい 深い愛で、包むから。 柔らかな黒髪に指を通し、弄ぶように耳に触れる。 ビクンと小さく反応を見せた来碧さんは 色気に塗れて妖艶で。 耳たぶから順に輪郭をなぞれば、彼は浅く上擦った息を吐きながらも、俺の手にすり寄ってくる。 どれだけ俺を虜にすれば気が済むのだろう。 どれだけ彼に夢中になれば気が済むのだろう。 答えなんて出せないまま、吸い付くように唇を重ねた。

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