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「っあああ~!!めちゃくちゃ緊張した…」 「どこに緊張するところがあったんだよ。 もしかして悪い事に手を染めた過去がおありで?…それは詳しくお話を伺いたいものですねぇ」 「ちょ、来碧さんいじめないでよ…」 「冗談だよ」 元々非番だった俺に合わせて綾木も有給を取ってくれたので、彼に今日、この後の予定は無い。 仕事に支障が出るほど深い傷もなく 明日は通常通りに出社すると言っていた。 「……さっき忘れ物取りに戻った時小耳に挟んだんだけどさ。あのα、何でもオカマに迫られるだの掘られるだの、取調べ中ずっとパニック起こしてたらしいぞ」 「え、ほんとに?俺転職して役者にでもなろうかな?」 「実は才能あったりしてな」 過去に大きなトラウマを植え付けられたあの男の事を、こんな風に笑い話に出来るのも 身一つで俺を守り抜いてくれた彼のお陰だ。 この恩は、俺の寿命が来るその日まで 必ず返し続けようと固く誓う。 「…ていうかさ、来碧さん。どこか買い物でも行くの?帰って……ないよね、この道」 「あぁ…えっと、その…病院に、だな」 「病院?!もしかしてアイツに怪我でもさせられ──」 「ちが、違う。違う、そうじゃ…なくて」 向かう先が、 どちらの家でもない事には、流石の綾木も気がついてしまったらしい。 盲目でもないのだから、こんな真昼間の晴れ空ではサプライズのサの字もないか。 実はこの後、俺には予定があった。 本来ならば自分一人で行くつもりだったのだが こうなった以上は…綾木も、連れて行きたくて。 外が怖いという訳ではなく、もっと単純な理由だ。 後ろ向きではなく、前を向いて生きていく俺なりのけじめであり、決心。 「母親の見舞い…なんだけど、付き合ってもらおうかなと思って……。紹介もしたいし…」 「あ……そ、そう言う事?!嘘!言ってくれれば俺もっと格好とか気持ちとかお土産とか準備してきたよ?!」 「そんなの要らないって。綾木さんはいつだって格好いいよ」 「う……」 大げさな身振りで車内を揺らしたかと思えば、今度は赤面して背を丸め、俯く。 本当に見ていて退屈しないし、嫌な事も消し飛ぶように心が晴れやかになる。俺にとって綾木はきっと、番という強制的な繋がりだけではない、もっと特別な、すべてを預けられる唯一無二の人物であるのだと確信せずにはいられない。 この先の人生で綾木が居ないなど考えられない程に、たったの数ヶ月という短い期間ですごくすごく大きな存在になっていた。 その時、何かを思い立ったかのように顔を上げた綾木は、髭でも気になりだしたのかしきりに頬の辺りを撫でる。 「綾木さん?どうした」 何を考えるでもなく、ごく自然に問う。 すると綾木は、待ってましたと言わんばかりに暇をしている手で俺の髪に触れたのだ。 「どうもしないよ?綾木さん」 「は?」 横側に垂れた髪を耳にかけられ、障害物の消えたそこへストレートに彼の声が響く。

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