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番の、解消…。 あまり流通していないながらも、確かに母のように捨てられたΩを救う事が出来る手段だ。 強制的に番にされるΩも少なくないこの世の中で、事例が少ない事には理由がある。 ひとつ、人権すら与えられないΩ自身の諦め。 ふたつ、逸脱した治療費。 大抵のΩが二つ目を理由に解消を断念する。 まともな精神状態の維持すら出来ない状況下では、働く事もままならず、纏まった金を用意するなんてまず不可能だからだ。 どれだけ心身の不調を訴えようと、自己責任だと罵られ保険適用外になる現実。 その上もう二度と番関係を結べないとなれば、再び永久的に訪れる発情期と戦わなくてはならない。 今度ばかりは、終わりなど無い。 死ぬ間際まで、ずっと、ずっとだ。 だからこそ、αに惚れ込んだΩは1mm以下の希望に縋る事しか出来ない。 もしかしたら…きっといつかは、自分の元へ帰ってきてくれるかもしれないと。 そんな夢のような話、ある筈がないのに。 「君のお母さんが何も言わないのなら、僕はこの先何年…何十年だろうと、彼女の傍で心を癒し続けてあげたいと思う。僕から何か言うつもりは無いからね。 ただ、もし彼女が決断したその時には……許してもらえないだろうか」 上手い言葉は見つからず、吸い込んだ煙を吐き出す中、こくんと一度きり頷いた。 俺は、この男に負けた。敵わなかったんだと自覚した途端、情けなく下唇を噛んでいた。 何度も考えていたのに、自分で精一杯の俺に何が出来るんだと自問自答し、打ち消し、先送りにしていた。 澄晴という番を見つけ、ようやく余裕が出て来た時に振り掛かった惨事のせいで、また。 自らの力だけではどうしてやれる事も出来ず、ただ彼女の強さだけを頼りにしてきた数年間。 己の無力さに、何度拳を打ち付けて来ただろう。 …頼って、いいだろうか。 この男に、懸けても良いのだろうか。 その時ふと思い出したのは、幼い頃、まだよく笑っていた母が俺の手を引いて浜辺まで連れていってくれた遠い記憶。 また…あの日のように笑ってくれるなら。 「……頼みます。 どうか母を…っ、お願いします…」 頭を上げれば、そこには安心しきった様子で元の爽やかな顔つきに戻る彼がいた。 強い意志を持った、輝く瞳だ。 彼になら任せても大丈夫だと 出会って間もない俺でも確信出来る、そんな。

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