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第三章・7

「数か月前に、行方不明になった生徒がいなかった?」 「確か、一年生の男子が」  彼はいじめに遭っており、そのことが原因で失踪した、とされていた。  だがしかし。 「彼は、ある組織に目を付けられてさらわれた。そう、私は見てる」  その子は、見た目が愛らしいオメガ性の子だったはず。 「多分、もうこの国にはいない。海外のセレブに、ペットとして売られたんだ」 「そんな!」 「彼のようなケースは、稀だよ。多くは、臓器移植の提供者としてさらわれるからね」 「う……」  顔色の悪い未悠に、健は声をかけた。 「育ちのいい子にする話じゃなかったな。ごめん」 「いいえ。あの、僕にもお手伝いできること、ありませんか?」 「何だって」 「そんな悪い人たち、放っておけません。犠牲者をこれ以上出さないためにも」  未悠の正義感は、勇ましい。  しかし、世間知らずすぎる。 「私の仲間になると、真っ先にさらわれて売られるぞ」  いや、最悪殺されるかも。  それを、健は恐れた。  しかし、未悠は引き下がらなかった。 「僕、今のままじゃ、生きながら死んでるみたいなんです。お願いします、仲間にしてください」  仲間、という言葉に、未悠は強く惹かれた。  独りぼっちの僕に、仲間ができる。  それは、何より輝く言葉だった。 「じゃあ……、とりあえずマンションを貸してくれるかな?」  拠点になる根城が欲しい、と健は未悠に願い出た。 「一緒に、暮らすんですね!?」 「ああ。それでいいかな」 「はい!」  粉雪の降る未悠の心には、健という陽が射し始めた。

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