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第四章・7

「寝酒を買うのを、忘れたなぁ」 「料理酒なら、ありますけど」  和食を作る時のために置いてある料理酒を、未悠はキッチンから出してきた。 「すごいな。料理酒まで置いてあるなんて、本格的だ」 「僕、お料理好きなんです」  アルコール度数が15%ある料理酒だが、残念ながら飲料には向かない。  それでも今夜は、少しだけ酔いたい健だった。 「こいつをいただくか。いや、待てよ」  これよりもっと酔える方法を、私は知っている。 「未悠、髪は乾いた?」 「はい、もう少しです」 「先に、寝室に行くから」  未悠が振り返った時、健の背中は寝室へと向かっていた。  テーブルの上には、料理酒の瓶が。 「健さん、飲まなかったのかな?」  髪は生乾きだが、未悠は瓶を片手に彼の後を急いで追った。 「忘れものですよ、はい」 「寝室まで持ってきてくれたのか」  せっかくだから、一口だけ。  そう言って、健は酒を口に含んだ。

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