39 / 101
第六章 ささやかな幸せ
朝、未悠が珍しく我がままを言った。
「ああ、学校に行きたくないなぁ」
「学生は、勉強しなきゃ」
でも、と未悠は健に乗り出す。
「もう周りはすっかり受験モードに入ってて。僕は進学の予定が無いから、置いてけぼりなんです」
「伯父さん、大学には行かせてくれないのか?」
それには、複雑な表情の未悠だ。
「はっきりダメ、とは言われてないんですけど。僕、これ以上は伯父さんのお世話になりたくないんです」
「じゃあ、就職するの?」
「それもまだ、決めてなくって」
学校に行けば、進路指導の先生にうるさく言われる、と未悠はため息をついた。
そんな彼の姿に、健は明るく言った。
「私なら、進学するけどな。キャンパスライフ、というのを味わってみたい」
「でも、伯父さんが……」
「しばらく会ってないんだろう? 伯父さんも、今は気持ちが変わってるかもよ?」
未悠の獣体姿を見て、化け物と罵り冷たくなったという、伯父。
常人ならば仕方のない反応だ、と健は思っていた。
気休めとは解っていたが、未悠をそうして慰めた。
結局彼は渋々ながらも登校し、健も抱えた事件について探り始めた。
ともだちにシェアしよう!