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第六章・6

「どうしたんだ?」  恥ずかしくなったのかな、と健が後を追うと、そこには服を全て脱ぎ捨てた未悠の姿があった。  床に丸くうずくまり、身を震わせている。 「おい、大丈夫か。酔ったのか?」  腰をかがめて覗き込むと、未悠の目が青く輝いた。  見る間にその体は白い毛で覆われ、未悠は獣化していく。  ただそれは、先だってバスルームで見た姿とは違っていた。  未悠の顔も、腕も足も、全てが獣化していくのだ。 「完全獣化……!」  自分以外の獣人を見ることは久々なのに、まさか完全獣化までお目にかかるとは!  すっかり大きなネコになってしまった未悠は、もう人語を話すことができない。  だが、その眼差しと甘えた鳴き声に、彼の伝えたいことは充分わかった。 「よし」  健も急いで素裸になると、その力を解き放った。  柔らかな白い毛に包まれた未悠とは違う、灰色の固い毛で覆われたオオカミ。  健もまた、完全獣化してその身を未悠に擦り付けた。  ごろごろと喉を鳴らす未悠は、目を細めて満足げだ。 (私は、喉を鳴らすことができないからね)  その代わり、鼻を鳴らして未悠に寄り添った。  毛皮を通して、温かなぬくもりが伝わってくる。 (健さん。僕もあなたが好きです。愛してます) (未悠。このままこうして、平穏な日々を君と送りたい)  言葉にならない思いは、強かった。  だから互いに身を寄せ合い、甘噛みし合って愛情を確かめた。  窓から見える月が静かに、二人を照らしていた。

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