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第八章・5

 身支度を整えた未悠がキッチンへ行くと、そこには温かな朝食が準備されていた。 「これ、健さんが?」 「いつも未悠に任せっぱなしで、ごめんな」  これからは、私も朝食の準備くらいする、と健は優しい。 「発情期が来てすぐは、体調を崩しやすいからな。辛い時は、朝寝坊してもいいよ」 「はい」 「それから。食べたら病院へ行くから。発情抑制剤、処方してもらおう」 「はい……」  どこか湿った返事の未悠だ。  健は、その顔を覗き込んだ。 「どうかした? 気分がすぐれない?」 「いいえ。あの、健さんはどうして、そんなに発情に詳しいんですか?」 「昔、発情期を迎えて間もない人と、交流があった」  それだけ。 (交流があった、だなんて。ハッキリ恋人だった、って言えばいいのに)  しかし、それを今の未悠に明かさないのは、彼なりの優しさなのだろう。 「さ、食べよう」 「ありがとうございます。いただきます」  心にもやもやは残ったが、未悠は無理に蓋をしてミルクティーを口にした。  それは、素敵に甘かった。

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