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第八章・8

「まさかあの男が、小咲 未悠のそばにいるなんて」  しかも、生きているなんて。  新見はすでに店外に出て、嫌な汗をかいていた。  先だって、仁道会の依頼で刺した男・城嶋 健。  雑踏の中、気配を消して鮮やかに成し遂げたはずの、殺し。  まさか、しくじっていたとは!  プライドの高い新見には、受け入れがたい事実だった。  使ったのは、幅の広いナイフ。  刺して、ひねったのだ。  声も立てずに、死んでいくはずだった。  たとえ即死でなくとも、失血死したはずだった。  それが、一週間程度でニコニコしているのだ。 「何者だ、あの男」  得体のしれない存在に、新見は気味が悪くなっていた。  だがしかし。 「次こそ、狩ってやるぞ」  そして、未悠を商品として仁道会に差し出す。  新見は手強い標的を前にして、返って闘争心に火が点いた。  スマホには、未悠の画像とその隣に健が写っている。 「幸せそうに笑いやがって」  引き裂いて、どん底に突き落としてやる。  新見の笑顔は、周囲から見ると穏やかな微笑みだった。  しかしその影には、大鎌を振り上げる死神の姿が見え隠れしていた。

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