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第九章 未悠の危機
「今日は特に冷えるな。夕食は、おでんにしようかな」
テキストをバッグに収めながら、未悠はそう考えていた。
健さん、おでん好きかな。
考えると、顔がほころぶ。
料理は、長い独り時間を埋めるためのものだった。
それが今では、大好きな人を喜ばせるためのものに変わっている。
校外に出たら、電話して訊いてみよう。
スマホをポケットに入れ、未悠はバッグを手にして教室を出た。
外の風は冷たく、頬が痛い。
「そういえば、健さんが今度マフラー買ってくれるんだった」
初めて出会った日、彼の傷口に当てて血が染みてしまった、マフラー。
その代わりを、ぜひプレゼントしたい、と言ってくれたのだ。
「明日、学校休みだから。一緒に出掛けたいな」
風は冷たいが、足取りは軽い。
そんな未悠が校門を出てしばらく歩くと、自動車が脇に停まった。
「やあ、小咲くん」
「新見さん」
運転席からは、新見が顔をのぞかせた。
相変わらずの、穏やかな笑顔だった。
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