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第九章・4

「健さん、どうしたんですか?」 「どうした、って。未悠こそ、何かあったのか!?」  帰りが遅いから心配してる、と健は素直に弱気を吐いた。 「僕、大丈夫です。ですから、健さんは心配しないで」 「今、どこにいるんだ?」  それに対しては、返事がない。  いぶかしく思った瞬間、通話口の声が変わった。 「こんばんは、城嶋さん」 「お前は……」  物腰の柔らかな、優しい口調。  だが健は、その声に危険を察知した。 「新見。新見だな」 「おや、声だけで解るとは。さすがですね」  俺の手から、一度逃れただけのことはある。  さすがと言えば、この少年・小咲もだが。 「小咲くんは大した度胸だ。拉致されても、顔色一つ変えやしない」 「未悠を。おい、未悠に指一本触れてみろ。ただじゃおかない」 「大丈夫。城嶋さんの、驚異の回復力の秘密を聞き出すまでは、命の保証はします」 「何が狙いだ、言え! 取引になら、応じるぞ!」  電話口からは、喉で笑う声がする。  そしてそのまま、切れてしまった。

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