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第十章 それぞれの闘い
仁道会事務所に、拉致された未悠。
彼は無理にその腕を掴まれ、袖をまくられていた。
後ろ手に手錠で縛められているので、抵抗ができない。
ただ、このままでは愛する人にとって不利益な事態になることだけは、ハッキリと解っていた。
(健さんが、獣人だって解ったら。この新見さんは、それなりの方法であの人を殺すだろう!)
満月の私なら、拳銃の弾丸なんて平気だ。
こんなことを言っていたが、今はもう満月ではない。
しかも、その月は欠けて来ているのだ。
新月に向けての獣人は、パワーがどんどん落ちてくる。
そんな健に、新見がライフルでも持ち出せば……!
嫌な考えは、とめどもなく溢れてくる。
しかし、今現在危ないのは、未悠自身なのだ。
『ご心配なく。かかる火の粉は、自分で払います』
健と出会った時の言葉が、思い出された。
(そうだ。僕は、僕自身で守らなきゃ)
でないと、健さんの傍にいる資格なんて、ない!
「暴れるなよ。すぐに、イイ気持ちになれるからな」
組員の注射針が、未悠の腕に触れた。
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