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第十章・2

 注射針は、確かに未悠の腕に触れたのだが、その体内に射されることはなかった。 「おい、どうした?」 「いや、ちょっと。針が曲がって……、おかしいな」  新しい器材で試しても、結果は同じだ。  針は何度でも、曲がった。 「こいつ……、何か妙だぜ!?」  未悠は、心身を集中させて表皮を固くしていた。  健のように屈強なタフさは無いものの、同じ獣人であるからこそできる業だった。  しかし、思わぬ副作用もあった。  体を獣化させる直前まで持って行った未悠だが、針が曲がった安心感についその本性が現れてしまったのだ。 「何だ、こいつ! 顔つきが変だ!」 「腕に、白い毛が!」 「ば、化け物だ!」  少し離れたところでその様子をうかがっていた新見は、思わず椅子から立ち上がっていた。 「獣人、だ」  まさか、こんな。 「小咲くん。君は、獣人だったのか」  ガチャガチャと手錠を鳴らして暴れるところを見ると、鉄を引きちぎるほどの力は無いらしい。  騒然となった事務所に、場違いなほど軽やかなスマホの着信音が流れた。  それは、組員の一人のものだった。

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