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第十一章・4

 冬が和らいだら、梅を観に行こう。  素敵な梅園を知ってるんだ。  ドライブと洒落込もう。  梅が咲いたら、次は桜だぞ。  桜の下で、お弁当広げて。  楽しいから。  絶対、楽しいから。  だから。 「……未悠!」  手術は、終わった。 「できるだけのことは、やったよ」 「助かるのか?」 「どうかな。後は本人の気力しだいだ」  本多はぶっきらぼうに見えて、健の気持ちを汲んでくれた。 「病室に、一緒に居てもいいから。何かあったら、すぐに呼んでくれ」 「……ありがとう」  個室に未悠は移され、健もその傍に付き添った。  静かな室内に、医療機器の立てる電子音だけが響く。  そんな中、健は涙をこぼしながらつぶやいていた。 「初めて会った時、助けてもらったよな。今度は私が、未悠を助ける番なんだよ」  助けさせてくれ。  頼むから。  このまま冷たくならないで。 「元気になって、また一緒に暮らそう」  もう、どこにも行かないから。  一生、君の傍から離れないから。 「未悠、愛してる。愛してるよ」  長く使わなかった言葉を、健は未悠に贈った。

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