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第十二章 春の気配

「300万、儲けそこなったなぁ」  そうぼやきながら、本多は未悠の脈を測っていた。  血圧も、正常。  血中酸素も、上等。 「さすがは、獣人だ。見事な蘇生だよ」  未悠は撃たれた数日後には、快方に向かっていた。 「先生、ありがとうございます」 「御礼は私より、そこの保護者さんに言うんだな」  未悠は、部屋の隅で大人しくしている健を見た。  意識は取り戻したものの、麻酔が切れれば患部が痛い。  そんな未悠を、心配そうに見ている健。 「彼はずっと君に、生きるように呼び掛けていてくれたんだよ」 「はい」 「聞こえてた?」 「はい」  頬を染め、わずかにうつむく未悠の表情に、本多は首を傾げた。 「そういえば、彼とはどんな関係?」  お父さんにしては、若いな。  お兄さんかな?  そんな本多に、未悠は小さいがはっきりした声で告げた。 「彼氏、です」  本多は笑いながら、立ち上がった。 「さすが、最近の高校生は進んでるな」  彼氏、と来たか。  何かあったら呼ぶように言い残し、本多は部屋を出て行った。

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