88 / 101
第十二章・4
未悠の入院中、一度だけ新見が病室を訪れた。
相変わらず、優しい微笑みをたたえて。
「無事で良かったよ、小咲くん」
「えっと。あの……」
何しに来た、と椅子を蹴って立ち上がったのは健だ。
「お前が撃ったんじゃないか!」
まあまあ、と新見は差し入れのケーキなど掲げて飄々としている。
「いろいろあったが、小咲くんには参ったよ。俺の負けだ」
「どういうことでしょう?」
「うん。それはね……」
新見は、未悠に出会ってからのことを振り返り、賞賛した。
仁道会の事務所で、組員に囲まれても毅然として振舞ったこと。
健が殴り込んで来た時、電燈を消した判断。
そして、愛する人をかばって銃弾を受けたこと。
「どれも、並の人間にはできない。君は素晴らしい」
そして、声をひそめた。
「俺と一緒に来ないか? 一流の殺し屋に育ててあげるよ」
「馬鹿言うな!」
健に一喝され、新見は笑った。
「ま、君はこの素敵な少年を、せいぜい泣かさないように。でないと」
でないと、本当に俺がさらいにくるよ。
新見は、未悠が気に入ったらしかった。
ともだちにシェアしよう!