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第十二章・6
「健さん、窓を少し開けてくれませんか?」
「いいとも」
開かれた病室の窓から入ってくる、風。
新見も触れたその風は、やはり春の気配がした。
「僕、退院したら行きたいところがあるんです」
「どこだろう。連れて行ってあげるよ」
「梅を。梅の花を、観に行きたいんです」
いいとも、と健は笑顔を向けた。
「素敵な梅園を、知ってる。そこへ行こう」
「ありがとうございます」
そこで未悠は、軽いデジャヴュを覚えた。
「……前にも、こんな会話をしましたっけ?」
「してないけど、君にそう語り掛けたことはあるよ」
銃弾を受け、意識不明に陥っていた未悠に、訴えた。
「だから僕は、こちらに還って来られたんですね」
健の必死の想いは、未悠にしっかり届いていたのだ。
寒い、凍えそうな場所から連れ戻してくれた。
春風とともに。
「梅の次は、桜だ。お弁当を持って、花見に行こう」
「気が早いですね」
笑う、未悠。
健は、その笑顔が嬉しかった。
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