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第十二章・7

「本当に、よく還ってきてくれたね。未悠」 「健さんが、呼んでくれたから」  健は、上半身を起こす未悠の体を支えた。 「痛まないか? 平気か?」 「もう、ほとんど何ともないんですよ。月齢は?」 「上弦に向かってるからな。傷の治りも、早まってるんだろうね」  でも、もう少しだけ健さんに甘えていたいな。  彼に体を預け、未悠は瞼を閉じた。 「健さん」 「何だい?」 「抱きしめて、くれますか?」  柔らかな未悠の体を、健はそっと抱いた。  壊れものを扱うように、大切に。 「未悠。愛してるよ」  もう、すっかり馴染みになってしまった言葉を、健は苦も無く口にする。 「健さん。僕、お願いがあります」  少し強く、未悠は健にしがみついた。 「ずっと、僕の傍にいて欲しいんです。どこにも、行かないで……」  語尾は涙で濡れている。  彼を慰めるように、健は優しくその髪を撫でた。 「傍に置いてくれる? もう一生、離れたくない」 「健さん……!」  トラブルメーカーの私だが、未悠ならきっと大丈夫。  一緒に、歩んでくれる。  春の予感を含んだ風が、二人を包んだ。  どこか梅の香りがするような、風だった。

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