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第十三章・9

「新しい連載は、何にするかな。歴史ものが無難かな」  健は、200年以上の人生を活かし、小説のライター業に落ち着いた。  ルポルタージュは、しばらくお休みだ。  未悠をもう二度と危険な目に遭わせないためにも、架空の世界を描く道を選んだ。 『そんなこと言って。きっとまた、獣人の血が騒ぎますよ』  こんなことを、未悠に言われてしまったが。  それも、有りかも。  彼と一緒に、社会の闇を暴くのも、いい。  ただ今は、幸せな春を満喫したい。  当てもなくさまよい歩いてきた人生で、ようやく見つけた道しるべなのだから。 「そうだ。未悠をモデルに、書こう」  愛らしく、聡明で。  そして勇敢で、こんな私を愛してくれる、かけがえのない少年。  そんな彼が、傷ついたオオカミ獣人を拾うところから、ストーリーは始まる。 「編集者に、叱られるかな。獣人ものはウケない、って」  でも、もうタイトルまで浮かんできてしまった。 『僕の彼氏はオオカミさん』  書きながら、顔がほころぶ。 「愛してるよ、未悠」  指先は軽やかに、キーボードを叩き始めた。  

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