33 / 80

33 HAPPY START ⓷

「ちょっと、まて。かず、まてって!すてい!」    こいつとんでもないこと言い出したと焦り、いにしえのワンちゃんごっこのノリで柚希は弟を押しとどめようと振り向きながら肘でぐいぐい硬い腹筋を押しのけた。 「無駄な抵抗。手加減しなけりゃ兄さんなんて僕の思うがままなんだよ?」 挑発的に囁いて和哉は柚希の耳朶を甘噛みし、小さく喘いで力を抜いた柚希を屈強な腕でいとも簡単に羽交い絞めにしる。  折角端正に服を着ていた和哉がベルトをかちゃり、と外す音がしてきた。   (かず、またする、気だ) やっと意識が少しはっきりしてきた今、和哉に話しておきたいことがあったのに、流されて抱かれてしまってはまたわけがわからなくなってしまう。心がすぐに和哉を望んでしまうと自分でも分かっているから、流されるその前に伝えたい。 「カズ、話をしたいんだ、やめろって」 お構い無しの和哉の不埒な手はせっかく着せた柚希のローブの紐を外すと襟を掴んで乱暴に一息に剥ぎ取る。 脇から腰のラインまで肌のなめらかな感触を楽しむようになんども撫ぜられ、そのうち兆し始めた柚希の前をローブ越しに玉ごともみあげられる。その直接的で俗な刺激に「くうっ」と柚希は少し前のめりになりながら呻き内腿をふるわせた。 「ずっとしてたからさ、僕のきっと兄さんの、奥まで。すぐ入るね? 柚希の中はさあったかくって僕に誂えたみたいにしっとり絡みついて、最高の締め付け具合で、僕何度たって、ナカにだせるよ? 赤ちゃんは柚希似た可愛い子がいいなあ?」 再び柚希の頭がついて行かれない発言その2が飛び出して、柚希は後ろ手で和哉の身体に腕を伸ばすと闇雲に爪を立てて逃れようとした。 「かず! 話聞けってこの!!」    このままなし崩しに身体を抱かれることも、嫌だというのに従順なふりはもうやめとばかりに和哉がぐいぐいと押してくる。 「うるさいなあ。せっかく柚希を堪能してるのに。ほら、これでも味わってて」    そう言って和哉が生クリームをたっぷりと指先ですくうと柚希の口の中に指ごと押し込んできた。思いもかけない行為に柚希が虚をつかれた顔で和哉の蹂躙を許してしまった。  とろりと甘いクリームを舌に擦り付けられ、うぐっとうめくが仕返しをしてやろうと和哉の指を甘噛みする。怯まぬ和哉が舌や上口蓋を指の腹で撫ぜ摩ると、すぐにそのぞくぞくする心地よさに柚希は眩暈がして、ちゅぴっと和哉の指を食んでしまう。力を半ば失った柚希の赤く色づく唇からはみ出した和哉の長い指の腹をクリームと涎が伝い落ちて甘い雫を滴らせた。 「美味しい? ほら、クリームに負けてないほど、柚希もとろとろだよな? もっと食べさせてあげようか? うーうん。やっぱり、僕が柚希を食べようかな?」  涙目になりながらふるふると首を振れば、和哉が美しい悪魔のように酷薄や微笑みを浮かべながら長い首を存分に活かして柚希の唇を、後ろから伸ばした舌で淫靡に舐めとる。柚希は怖気にも似た快感に腰が揺らめく。  兄の反応を楽しみながら、和哉は牙を見せつけるようににやりと嗤うと疼き熱の引かぬ項に歯形をげしげしと増やしながら番に熱情をぶつけだした。 「僕のことだけ考えてよ。この世に僕たちしかいないみたいにさ、僕のことだけ見て。柚希、沢山沢山、愛してあげるからね? どこにもいかないで」  いいしな生クリームで汚れた指でぬるぬると柚希の小さな乳首に弧を描くように触れる。和哉からの執拗な愛撫に、ぷくっと小さなそれは数日の情事の間にすっかり悦びを得られる器に変えられてしまった。  するすると指先で撫ぜられ、時にきゅっと摘ままれ、また潰すようにくにっとされると目の前がチカチカとするような快感に飲まれ、下腹部に熱がたまるのを感じる。 「そこっ……。ずっとわぁ、辛いから、だめぇ!」  掠れ声で哀願するが、ぬるっとした感触で両方同時に捏ねられると、善すぎてすすり泣くほどで、それが皮肉にももっともっと兄を啼かせたいと和哉の欲望に加速度をつけてしまう。 「よさそうなのに、嘘つかないで。もっともっと乱れた柚希が見たいんだ。僕にしか見せない柚希が欲しい」  そして、一日中和哉に愛され続けたまだ腫れぼったい一点に、あてがわれた硬い屹立の存在感に柚希が気づいて逃げる暇も与えずに、立ったまま柚希を押さえつけると、後ろから一気に貫かれた。 「あああああ!」  膝に力が入らなくなり、前のめりに倒れそうになる柚希の身体を難なく腕力だけで抱えたまま、しかも中腰で激しく攻め立ててくる和哉になすすべもなく翻弄される。 「ひぁっ!あああっ。あん、あぁ……」  引き連れた声はかすれが擦れの喘ぎ声に代わり、もっとも感じる中をピンポイントで抉られた拍子に達した柚希は陸に打ち上げられた魚のようにぴくぴくと身体を痙攣させらながら完全に脱力する。 絨毯の上に膝をつき、もはや声もなく黒髪を振り乱したまま頭を垂れた兄の中を和哉は強靭な足腰でなおもがつがつと穿ち、我儘に悦楽に身を沈めた。 揺さぶられるままの白い身体を意のままに操るのはどうしようもなく魅惑的で、腰に片腕を回しもう片腕で柚希の手首を引きながら大きくグラインドさせるともはや意識が薄れらかけた柚希が吐息だけで「はっ、はっ」と蛇のようにほの青い程白い腰をくねらせ辛そうに喘ぐ。 「柚希、辛い? 辛そうなのに、すごく綺麗だ」 ゆるゆると昨日そこで達する癖をつけさせようと犯した奥に押し付けるようにすれば、柚希の身体はそれをしっかり覚えていてちゅっちゅっと和哉の先に口付けを繰り返す。調子に乗ってそこだけをさらにしつこく犯したら、潮を漏らした柚希がすすり泣きながら気をやったのがたまらなく可愛くてぞくぞくくるほど哀れだった。 「ああ……。柚希の中、きちんと僕の形、覚えてるみたい。いい子だね?」 このままでは‪α‬特有の瘤が盛り上がって柚希の中から抜けなくなるだろう。昨晩その状態から和哉を呑み込んだまま、柚希は中だけでなんどもイキ続けて身体を震わせるのが堪らなく艶美で愛おしくて、頭から食べて何もかも全て飲み込んでしまいたくなる程、中毒のようにまた、柚希に飢えた。 手首を離して両手で腰を掴んだら、綺麗な顔を歪めて床に擦り付けたので流石に、しひどい仕打ちをしていると我に返る。 「柚にい、ベッドに戻ろうか? がっついてごめんね。もう、欲しくて堪らなくなったら止められないんだ。……ちゃと愛してあげるね?」 痛みを覚えるほどに高まった和哉自身をゆっくりとぬきさると、柚希は小さくはない彼のペニスから白濁をどろりと滴らせて蜜壷からもぬめる蜜を零して喘ぐ。 「僕のだ」 和哉は柚希を獲物のように抱えて寝台に駆け上がると、もはや柚希へ溺れるようにその身を抱えて揺さぶり続けた。   街路樹から金木犀の花は散り落ち、季節は確実に冬に向かっていく。たった数日前に車で通りがかったばかりの道が今日はまるで違って見える。  完全に発情が収まった五日後の夕方。和哉が運転する車に載せられて柚希はうつらうつらしながらシートに身を埋めていた。  和哉が持ってきてくれていた厚手の真新しい白いパーカーは温かく、気怠さの残る身体をしっとり包み込んで柚希はくたっと身を椅子に預け眠気に呑まれそうになる。  信号で止まるたびに和哉が柚希のひざ掛けを直したり、頬にかかった髪を撫ぜたりと世話を焼いてくれる。晶も、そして今まで付き合った女性たちとも、共にいる時はやはりどこか相手に気兼ねしたり、緊張して過ごしていることが多かったから、このようにリラックスできる相手と結ばれたことは幸せだと思った。思ったが何故かどうしても完全にそれに浸りきれぬ自分はどこまで嫌な奴なのだと思う。 (結局あのことを話せないまま……)  今も優しく頭を撫ぜ、口づけを目元に落としてきた和哉の穏やかな仕草に泣きたくなってしまった。 「もうそろそろつくよ」  和哉はホテルにいる間の上機嫌が収まり、僅かに緊張した面持ちになっている。無理もないだろう。実家には今父も母もいて、二人の帰りを今か今かと待ち構えているのだから。それは柚希も同じだった。  付き合うのを通り越していきなり番になった、義理の兄弟。  法的にも結婚できるのかどうかとか柚希には分からなくて、あれこれと不安ばかりが浮かんでくる。    車は実家近くに借りている駐車場についてしまった。目をこすりながら曇り空ですでにどんよりと昏い窓の外を見つめている柚希が中々シートベルトを外さないので和哉が手伝ってくれようと身を寄せてきたので間近で目が合う。  拘束が止んだ身体で柚希はすぐさま和哉にしがみ付いたから、和哉は何も聞かずに柚希のこの数日ですっかり痩せてしまった半身を抱き寄せた。  こんな実家近くの駐車場で、夕暮れ時とはいえ男二人で、それも兄弟で抱き合っているなんて近所の人に見られたら恰好の噂の種になるだろう。だが今はどうしてもこの年下の男の温もりに包まれて勇気をもらいたい心地になったのだ。 「甘えただね? 柚希」 「ふふ。やっぱ緊張するよな……」 「なにが?」 「敦哉さん、許してくれるかな。もう番になっちゃったんだし、許してくれなきゃ困るけど」 「なんのこと??」 「和哉君を、俺に下さい。一生大事にしますってさ……。許してくれるかな? 俺がお前と番になったこと……。良く思わないんじゃないのか??」 「……兄さんってさ、どこまでもほんと」  はあっとそれはそれは深い嘆息をついた弟に、ぎゅっと抱き着き過ぎてボタンの痕がついてしまった額を摩りながら柚希が小首を傾げて小さく睨みつけた。 「なんだよ、カズ。その態度」 「本当にさ……。家の中で兄さんだけだよ? 僕が兄さんのこと好きだってしらなかったの。父さんなんてとっくに僕が兄さんのこと好きだって知ってたよ。むしろ小学生の頃から」 「……まじか」  親たちは和哉の柚希への気持ちを知っていながら共に生活していたのだとしたらどんな気分だっただろうか。色々考えると怖ろしくもあるが、少しだけ気持ちが上向いてきた。 「なんなら桃乃さんも知ってる。柚希さんを僕に下さい、一生大切にしますっていうのは僕の役目だから先に取らないでよね? 」 「すごいな、それ。プロポーズみたいだ」  さらにさらに呆れるを通り越して、凛々しい眉毛を今度はすっかり八の字に下げ切った和哉は、また深く深くため息をついた。 「ちゃんとしたプロポーズはまたさせて下さい。まずは番になってもらうことしか考えられなくて、ここからあらためて、交際はじめて、二人っきりでデートとかちょっと遠出の旅行とか、色々やりたいことが沢山あるけど、結婚するのは絶対だし、決定事項だけど、プロポーズはしてみたい」    ぶつぶつ呟く弟に柚希は額を肩を拳で、わざと雑な仕草で押して照れ隠しをしてしまう。 「……ははは。お前計画的何だか、無計画何だか」 「でも本当はさ。一度してるんだよ、僕。兄さんにプロポーズ」  柚希の瞳の中を覗き込み、和哉はまた試すような口ぶりでゆっくりと唇を合わせてきた。触れるだけなのにそこだけ熱が増したように熱く感じて、火照る顔で睫毛を震わせ、一度は誤魔化した答えを呟いた。 「あの時か? 母さんが入院した時」 「そうだよ。『ずっと傍にいるよ』って言った。あれ。本気だったよ。あの時から今でも。僕はずっと、柚希だけが好き。兄さんはどう思ってたの?」 「……俺もずっとお前といられたらよかったなあって、あの時そう思ってたよ」 「そっか。嬉しいな……」 「お前の布団に入れてもらって俺……。不安で泣いちゃってさ、恥ずかしいったらなかったよな。そしたらカズがさ、布団の中で俺に、キっキスしてきてさ……」 「なんだ。やっぱり忘れてなかったじゃないか。そうだよ。あの時、柚希キス初めてだった? 僕は当然初めてだったよ。柚希は?」 「……初めて決まってるだろ。中一だったんだぞ」 「それもすごく嬉しい。そうだろうとは思ってたけど、長年の疑問が溶けた」  今まで何度聞いてもはぐらかされてきたことを柚希がついに白状したので喜んだ和哉は大きな掌で柚希の両頬を掴んで持ち上げ、またあの時よりは上手に唇を食んで煽るような口づけを仕掛けてきた。  発情期が過ぎたとはいえここまで深い口づけを施されると兆してしまいそうになる。 (ぬるって、でも気持ちいい、耳たぶやわやわ触られるのも気持ちいい) 「んっ……。カズぅ」  徐々に蕩けていく柚希の滑らかな舌や甘く熱い吐息に、和哉の方が先に夢中になりかけてしまう。 「……これ以上は駄目だね。柚希の蕩け切ったエロい顔、流石に父さんたちに見せるわけにはいかない」  音を上げ大きな身体を起こした和哉が先に車を降りようとするのを柚希がその手をぎゅっと掴んで強く引き留めた。 「柚にい?」 「……カズ。母さんたちに会う前に……。俺、お前に話しておきたいことがあるんだ」  あまりよくない内容なのかと先読みした和哉は聞くことすらためらうようにあからさまに顔をそむけたが、柚希はシートから身を乗り出して再び弟を流石男とでもいうような腕力で引っ張って自らの胸に頭を押し付けるようにして抱き込んだ。  柚希の方からこんなふうに能動的に動くこと自体が少ないので、和哉はもう観念して柚希が言いたかったことを聞くよりほかに術がなくなった。  それが和哉にとっては都合が悪く、切なく今後の人生を煩悶し続けるような内容であったとしても。 「発情期が終わったら、頭が冷えて、僕と番になったこと、後悔してるの?」  

ともだちにシェアしよう!