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番外編 ありがとう、おめでとう、よろしくね 終章 Xmas

昨日の晩はあんなことになったが、今朝は柚希はぎりぎりまで寝こけて慌てて昨晩の余韻に浸ることも出来ずに出かけていった。 ともあれ二人はアパートのすぐ裏にある貸し駐車場に父の車を停めてから、互いの薬指に金色の指輪が輝く手をしっかりと繋いでアパートまで帰ってこられた。   「寒い! 暖房!!」  コートを着たままの柚希がローテーブルの上に載っていたリモコンに手を伸ばす前に、テーブルの上に並べられたリボンがかかった小さな品々に目が留まった。   「これ……、昨日ツリーの下にあったやつ?」 「そうだよ」  昨夜に手にすることはなかったツリーの下に賑やかに並べられたプレゼントの箱は、装飾の為ダミーも本物も織り交ぜてある。  大きな箱の一つは薄ピンクの綺麗なものだったが中身はからっぽで、昨日着たお揃いのパジャマが入っていたらしい。もう一つちょっと淫靡で目に刺激的な蛍光ピンクに蛍光イエローの縞模様の箱。そちらにはちょっと?エッチなアダルトグッズが入っていたらしい。柚希的には和哉がこれどすましたあの顔で、どこで仕入れたのか気になるところだ。  つまり昨晩柚希を散々啼かせたあれら、そしてその他にもまだ和哉がなにやら隠し持っているらしい。どんなタイミングで披露されるかは分からないが、これだけは言える。柚希の可愛い弟は爽やかな顔に反してとんだスケベだ。  ツリーは主の留守中も休まずに、まだちっかちっかと赤や黄色の明かりを灯している。今日実家に帰るからその時返してしまえば?と明日からの生活を考えて情緒のない柚希は今朝そう弟に促した。しかしクリスマス本番の今日まで飾っておきたいと和哉が明日には片づけを約束してくれた。 「コーヒー淹れるね」  エアコンの動作音、電気ケトルのお湯の湧く音。  柚希がすぐに出かけるからとソファーにコートを置いたのと対照的に、和哉はきちんとコートをハンガーにかけて玄関わきのフックに丁寧にかけていた。  靴もそう。せっかちな柚希が早く部屋を温めようと後ろに蹴り上げるように脱いだ靴を、和哉が自分の分と共にきちんとそろえて室内にゆったりと入ってきた。 (俺たちって……。子供の頃から一緒にいた兄弟だし、番にはなったけど、性格も体格もまるで違う)  頸に永遠に消えない噛み痕がついて、和哉とは深い絆で結ばれたけれど、よくよく考えてみたら二人は違う人格を持つただの男だ。   (和哉のこと。なんでも分かったつもりでいたけど、知らないことも沢山ある。和哉が社会人になったらきっとこれからもどんどん更新されていくんだろうな。だからこれからは番として対等に沢山ぶつかり合って、それでその倍抱きしめあって。ずっと愛しあっていきたいなあ)  和哉が大きな手に湯気の立つカップを二つもって、柚希の腰かけたソファーに運んできてくれた。 「はい。兄さん」  二人で暮らす時に母が持たせてくれたマグカップは、柚希のカップが黄色の釉薬が蕩けた満月のような色で、同じ柄なのに和哉のそれは雫を載せた若草のような瑞々しい翡翠色。  二人の象徴のようなそれに口をつけて、淹れたての珈琲の香りを楽しんでから猫舌の柚希は一口だけ啜るとテーブルの上に慎重に置いて自分宛の贈り物の数々に目を向けた。 「これ、どれから開けていいの? なんか懐かしい柄の包み紙があるね?」  小さなサンタがソリにのってトナカイと夜空を飛び回る、そんな線画が描かれた赤い包装紙はちょっとよれよれだが、しっかりセロハンテープで封がなされている。 「……中身が無事だといいんだけど」 「??」  セロハンテープがもうべたべたになってしまってそこからはがせなかったから、和哉に目配せして柚希は同意をとるとピリピリと上を破り取ると中から黒々した目がくりっとした、小さな黄色い仔犬のマスコットサイズのぬいぐるみが出てきた。どう見ても成人男性へのプレゼントにはそぐわない雰囲気だが、掌に載せると丸まっこいフォルムでころっと転がり、とても愛らしかった。 「可愛いな? どうしたのこれ?」 「説明は、まとめてするから次」  和哉は仔犬を柚希の掌から取り上げると、今度は平たい紙の箱。青いリボンがかけられていて、一度ほどけたのかちょっと曲がって結びなおされている形跡がある。  解いてぱかっと開けてみると、中から若い男性が首から下げて居そうな銀製の細身のクロス型のペンダントが出てきた。 「……今見るとちょっと、シンプル過ぎだな」 「ペンダント?? これ高校生の頃、和哉がしてたやつと似てない?」 「……。はい、次。これで最後」  最期の贈り物は和哉が手に持って柚希の掌に直々に乗せられた。  その箱の大きさ形には既視感があり、しかし想像のそれよりはずっと軽い。柚希は何となく中身を想像しながら再び勢いよくぱかっと箱を空けた。    深紅の天鵞絨の布に包まれたそれをゆっくりと指先で開いていく。 「すごい……これ、綺麗だ」  布を取り払うと現れたのは、金属と飴色の木が組み合わされたフレームとオレンジに近い赤い天然石のはめ込まれた文字盤と金色の針。デザインがまるでファンタジーの世界の住人の持つ道具のように凝っている。 それはそれはとても美しい、柚希がいかにも好みそうなロマンあふれる、木製の腕時計だった。   「……はい、僕も。サプライズ被っててかつ、先越されました。でも、いいこともある」  驚いて顔を上げた柚希の頭を優しく引き寄せて、珈琲が香る唇を押し当てる。顔を離すと今度は時計を持ち上げていた柚希のほっそりと白い手を口元に引き寄せて、幼い頃にそうしたように手の甲に口づけながら熱っぽい眼差しをしっかりと柚希に惜しみなく注いで、こう囁いた。 「柚希さん、これから僕とずっと同じ時を刻んでください。結婚しようね?」    サプライズの手紙も、紙皿も。  もちろんよい、どれも最高かもしれない。 「……ああ。しよ?」  でも直接面と向かって言われたら、声は上擦るし、胸の熱い高鳴りといつも本当に端正だなと思う和哉の顔がまた一段と輝いて見えるし、言葉に詰まって何度も頷きすぎて震える自分の手元をみると、絶えず震える手元を握ってくれる和哉の成長した大きな掌にまたじんっときて。 「面と向かって言われるの、やっぱすごい。胸にずぎゅーんって、なんか矢でも刺さったみたいに、きた」 「そうか。じゃあ、僕はやっと兄さんをしとめられたのかな?」  柚希はこくこくと素直に頷いて、眦を下げてふわりと柔らかく舞う優美な白い花びらのような、あの日和哉が一目で虜になった笑顔を見せた。   「和哉ありがとう」  和哉にしては珍しく慎重でない動きを見せて珈琲の載ったテーブルを膝でがんっと押しながら柚希を抱きよせると、互いにまだ冬の外気の冷たさをまとったひやっとした頬を近づけあう。  一度口づけを交わしてから悪戯っぽい目をして柚希が和哉の唇を再び食んで呟いた。 「それで、こっちの二つの説明は?」 「ぬいぐるみは初めてみんなで過ごしたクリスマスの時、兄さんに渡せなかったプレゼント。捨てるのも可哀想で持ってた」 「どうして渡してくれなかったんだよ? 俺昔から可愛いもの好きだよ?」 「その前に父さんが渡したマフラー撒いて、敦哉さんって顔真っ赤にして兄さんうっとりしてただろ? 悔しくて、こんな子供っぽいしょぼいプレゼント渡す気になれなかった」 「俺、和哉がくれたものならきっとなんだって喜んだよ」  指先でワンコの時を経てもまだふさっとした尻尾を撫ぜる指先に、和哉が指先を絡めて自分の頬にあてる。 「兄さんは小さい僕のこと、王子様扱いしてメロメロだったから、きっとなにしたって喜ぶって知ってたよ? でも僕だって小さくても男だったんだ。一番好きな人には恰好いいって顔されてうっとりされたかった」 「あの頃あんな可愛い顔して甘えてきて、影じゃそんなこと考えてたのか? 生意気な奴だな! それなら俺だって恰好いいって思われたい。綺麗とかかわいいとかじゃなくて」 「もちろん思ってるよ? なんだかんだ言って、兄さんは今日だってちゃんと恰好よかった」 「ちゃんとって。あっちのクロスは?」 高校生になってから部活の傍ら和哉はバイトにも精を出していた。恋人とと出かけたりプレゼントでもするためにお小遣いでは足りないのかなと思っていたが、結局三年間和哉にそういう相手を紹介されなかったのが柚希としては少し寂しかった。実際のところ和哉は学生時代も一途に柚希だけを愛していたわけなのでそれは今となっては杞憂だったのだが。 「高一の時、初めてバイトをして、兄さんとお揃いでしようと思ってクリスマスプレゼントに買ったんだ。でも兄さん、直前に女の子と付き合って……、渡せなかった」  クロスに手を伸ばそうと放しかけた右手をぎゅっと掴み阻まれ、その時の気持ちをなぞるような声色に宿る不穏な響きに柚希はたじろぎながら言い募る。 「専門学校の同級生な? あれは告白されて付き合ってたっていうか……。クリスマス前に恋人と別れたから、予約してたクリスマス限定のスィーツ食べにいかないかって誘われて。普段からまあ世話になってた人だったし。まあ仕方なく」  もちろん製菓の専門学校に通っていた柚希としては限定スィーツにがっつり心を持っていかれていたわけで、その彼女とはやはりお友達の域を出なかったが、和哉は悔しくて当時細かい話を聞くことができなかった。今よくよく聞いてみれば、和哉は限定スィーツに負けたようなものだ。 「……仕方なくねぇ? その仕方なくのせいで、僕の高校時代のクリスマスの思い出は散々なのばかりだ……。」 「全部人のせいにするのか? お、お前こそ洗いざらい白状しろよ? 昨日有耶無耶になったけど……。ね、寝てる俺になんかよからぬことをしてたって言ってたよな?」 「よからぬことって? どんなこと??」 「それは、その?」 「兄さんの口から聞きたいなあ?」 「でた、そのパターン! 俺に恥ずかしいことわざと言わせようとするやつ!」  その手は食わないと口を噤むが、聞き出すこともできないから目を凝らすようにして和哉を甘く睨むと和哉が耳元に唇を近づけてきた。 「未分化の性別を持つ相手に、αが性フェロモンを浴びせながら粘膜を接触し続ければ、相手をΩ性に傾けられるって学説があったから」 「……」 「兄さんが早くΩとして目覚めればいいのにって思いながら、夜な夜なキスしてた」  そのままゆっくりと狭いソファーに押し倒されて、そのキスを再現するかのように、和哉は静かに顔を寄せ、柚希は和哉を見上げる格好になった。 「兄さんはβのままでいたかったのに、僕のせいで。ごめんね?」    ごめんね、の一言には後悔は滲まないが、和哉の目にはまたあの時折見せた憂いが滲んだ。 「カズ……」  もしも二十歳そこそこの血気盛んな柚希が、発情期が来た直後にこんな告白を和哉にされたら、柚希はただただ頭に血が登って感情だけで周囲に当たり散らし、そのまま逆上して和哉を遠ざけたかもしれない。 「あの時すぐに番になるとかならないとか、揉めなくてよかった……。発情したばかりの頃から、ついこないだまで。俺は迷ってばかりで昔の自分に戻りたいってそればかり考えていた。そのせいで沢山愛情を貰っていることにも気がつけなくて……。沢山人を傷つけた。すまなかったって反省してる」 「柚希」 「でも今はさ、迷いなく幸せだっていえるよ? 」  和哉を慰めるように柚希の方から身を起こして和哉の唇に自らの唇を押し当てた。  これから実家に行かねばならないというのに、押し当てられるだけですまぬ口づけに柚希も繋がれていない方の手を首に回して熱心に応える。  和哉はそのまま柚希のシャツの裾から徐々に温まりつつもまだ少し冷たい掌を滑り込ませて、温かな腹から胸、柔い肌を味わうように滑らせ、胸元にまでたどり着いた。 「はぁ、はぁ」  音を立てて唇を離した柚希は潤み誘うような目つきで弟を見上げると、弾む息を落ち着けようと小さな色めいた吐息を繰り返し漏らす。  柚希は乱れた衣服を直そうともせず、妖艶な顔のまま一度ソファーの肘掛にずるずると身を起こして和哉に腕を投げるようにして抱き着くと、和哉は昨晩のように柚希の脚をひとまとめに抱えて横抱きに膝に載せる。  腕の中にいる柚希は上目遣いに弟の大きな瞳に流し目をくれて、少し悪戯っぽく微笑んだ。   「それとさ。カズ、これだけは言っておくけどさ、お前勘違いしてない?」 「……なにを?」 「俺がΩなのは先天的なものらしいから、もう気にすんな」 「……僕が柚希がβに戻りたがっているっていったから? そんなことをいうの?」  柚希がβの頃を懐かしむたびに和哉の顔綺麗な眉目が翳ることに互いに気がついていて、気安めにそう言っているのだと思われたようだ。  柚希は緩く首を振りながら、するりと慈しむように両手で弟の頬を撫ぜる。 「お前の言ってる学説がなにかは分からないけど、バース性の研究は今も続けられていて、分からないことも新しい発見も毎年ぐらい刷新されていく分野だろ? 俺だって何度か主治医の先生に確認したんだ。βに戻ることもあるのかって聞いたら、君はもともとΩだよっていわれた。確かにお前や敦哉さんのαのフェロモンに触れたことが、ヒートの発現の契機にはなったかもしれないけど、俺はβっぽい期間が長かったΩってことだそうだ。それでも今の研究だと15~25ぐらいまでにヒートが来ればまあ、ぎりぎり正常な範囲らしいって。調べたこともないから知らなかったよ……」 「……そうなんだね」 「でもさ、俺背も小さい方じゃないし、バスケ部でガンガン攻め倒してたし、見た目だって男だし」 「とても綺麗だけどね? 存在感がバスケ部の中でも際立ってたよ」 「そんなの弟の欲目だって」  けらけら可愛い顔で笑うが、兄の自分の魅力に無頓着なところには何度も煮え湯を飲まされてきた和哉は強く否定した。 「自分じゃ分からないかもしれないけど、兄さんは隠しても光が滲むみたいに明るくて、透明感があって、際立って綺麗だ。それは認めて。番のいるΩにもわざとちょっかいをかける人間はいるんだから気を付けて」 「はいはい。話それたな。それでさ、俺は発情期がない期間の方が長かったから、やっぱり前の生活の方が断然楽だし。懐かしむのはしょうがないだろう? お前だって明日から急にヒート来る上に妊娠できるとか言われてみろよ? 戸惑うだろ? 嫌気さすだろ?」 「それは、そうだろうね」 「だろ? そんなのβみたいな生活ができた方が楽に決まってるんだよ。急にΩだって言われても意識は簡単に変えられるもんじゃないんだよ。俺が今の自分自身に納得するのに時間かかったのはそのせいだ。でもまあ、その……。だからとにかく気に病むな。そんな顔すんな。お前にしてみたら、俺はずっとお前のΩだったんだろ?」  初めて出会った時の柚希の柔らかな笑顔、差し伸べられた手を思い出して和哉は微笑み、頬を撫ぜたり髪を悪戯する兄の手を握りこむ。 「僕は出会った時から兄さんに……。抗いがたい程、本能的に惹かれてた。だからきっと僕はαで兄さんはΩで……僕は兄さんに出会うためにこの世に生まれてきたんだって確信したんだよ。なのに兄さんに未分化の判定が出た時、僕はどこかおかしいのかとか、僕の方こそαじゃないのかとも思ったし、でもどうしても兄さんが欲しくて……。年上の同じ性別の人に振り向いてもらうためにはどうしたらいいんだって、色んな事考えて試して空回りして……」  空回りは苦しいことの連続だったようで、再び憂う口元に柚希は鼻先を摺り上げながら唇を寄せて拙い口づけをした。 「……分かってあげられなくてごめんな? 辛かったよな」  本人から面と向かってそう詫びられると、少しきまりが悪くなるようだ。和哉は照れて睫毛を伏せ、しかし今腕の中で兄が和哉に身を預けてくれているという事実と重みを感慨深く味わった。 「辛さより……。幸せなことが多かったよ。人を好きになる気持ちは、ずっと僕のここで輝いて、人生を明るく照らしてくれた」  和哉が柚希の手ごと胸に拳を当てて、男っぽい美貌を輝かせる。 「柚希。笑って? はじめて出会った時。柚希は僕に安心させるように笑いかけてくれたよね? あの笑顔を見た時、久しぶりに綺麗なものを見た気がした。あれからずっと、僕の中で一番綺麗なものは柚希の笑顔だよ」  そんなことを言われたら照れてしょうがない。はにかんだ柚希も瞳を輝かせてぱわっと、和哉が一番大好きな光が零れる表情をみせて小首を傾げた。 「カズも笑えよ? 俺だってさ、昔からお前の笑顔の為ならなんだってできるって、そう思ってるんだからな? 本当だよ?」  互いに笑顔ではにかみあって、それで冬の隙間風も物ともせぬほどぴったりと互いを温めあって。  年の瀬の迫ってきたこの日、二人はこれからもずっと家族で居ようと約束を交わし合った。 「カズ、ずっと俺を好きでいてくれて。ありがとう。これからも、よろしくな?」 「僕こそよろしく。生涯かけて、柚希を愛させて」  生涯をかけてなんて、なんという重たくも深い愛。  でもそんな言葉を笑い飛ばしたり揶揄ったりはしない。柚希は和哉の愛情を心底信じているのだから。だからこそ、伝えたい思いがある。 「お前もちゃんと、俺の愛情を信じろよ? Ωが項噛ませるってことはさ、とてつもないことなんだからな?」  分かっているつもりでも、分かっていなかったのは和哉も同じことだろう。弟はゆっくりと大きく眦の切れ上がった綺麗な瞳を見開いてから、深く深く頷いた。 「一番重要なことなのに、嫉妬で見えなくなってた。そうだよね。兄さん。ごめんね」 「分かればいいんだよ。そろそろ、母さんとこにいこうな? んっ?」  手首にわだかまる袖を柚希は勢いよくまくり上げると、ちょっと芝居がかった仕草で左手を恭しく和哉に差し出した。  察した和哉が柚希の手首に軽く温かみのある時計を巻き付けてくれたのを見て、柚希は左手の薬指に耀く指輪と共に大切な時計を蛍光灯の明かりに透かすように視界に入れてにんまりと微笑んだ。 「いいねえ。お前のものって気がする」    そのまま和哉の大きな骨ばった手を掴み上げて指輪と薬指にちゅっと音を立てて口づけた。 「お前も俺のものって感じがするぜ?」  炯炯と輝く瞳は今日は若い雄の匂い立つ色香も湛えて、和哉の目には危険なほど美しくうつった。そのまま再び深い口づけに溺れたくなる気持ちをなんとか抑えて立ちあがる。  二人は笑顔を浮かべたまま白い息を弾ませてアパートの階段を降りると、父と母の待つ師走のきんっと冷え切った家路を急いだ。                                 終          

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